医療・介護の提供量が少なくなると、老い方、死に方はどのように変わるのか

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (18)

高橋泰
国際医療福祉大学大学院教授


医療・介護が少なくなると、何が起きるのか

後期高齢者の激増とそれ支える若年人口の激減により、今後1人ひとりの高齢者に提供される医療・介護サービスの提供量は減らさざるを得ないでしょう。それでは医療・介護の提供量が少なくなると何が起きるのでしょうか。筆者は、1999年から2003年にかけて、愛媛県の大三島という瀬戸内海に浮かぶ島の町と、熊本県の相良村という山村において、高齢者の老化のパターンの地域差に関する研究を行いました。

2005年今治市と合併した旧大三島町は、第3の瀬戸大橋である尾道・今治ルート、通称「しまなみ街道」のちょうど真ん中に位置する大三島の西半分を占めていました。国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集2003年版によると、2000年の高齢化率は44.85%であり、日本で最も高齢化の進んだ地域の1つでした。それにもかかわらず、医療も介護サービスも乏しく、介護保険が始まった時の保険料は2500円と日本の最低レベルでした。

一方、熊本県南部の人吉盆地の北に位置する相良村は、77%を山林が占めています。ダム工事中止で有名になった川辺川ダムのある村です。ダム工事の仕事があったためか、山間部としては豊かな村で、若い人が村に残っているため高齢化率や独居率も低く保たれています。相良村には、老人保健施設や特別養護老人ホームもあり、充実した介護サービスのフルメニューが揃っています。介護保険が始まった時の保険料は4500円を超えました。日本でも有数の手厚い介護サービスが提供されている地域です。

大三島町と相良村の比較研究[1]

は、調査開始時点の両地域の高齢者の自立、軽度障害、重度障害の割合を示しています。医療・介護サービスの乏しい大三島町の方が、相良村より軽度障害の占める割合が少なく、重度障害は若干多いことが分かります。

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軽度障害とは、大まかには、何らかの見守りを必要とするが、直接の支援は不要な場合であり、重度障害とは、直接的な介助が必要な場合を指します。詳しい定義については、研究報告書[1]を参照してください。

研究では、1999年の高齢者集団を2003年まで追跡して、自立、軽度障害、重度障害、死亡への推移を、1年間隔、2年間隔、3年間隔、4年間隔で観察し、2つの地域で比較しました。2000年に介護保険が始まり、新たに入院・入所という本人の自立能力の評価に施設の条件が加わった分類カテゴリーが追加されました。重度障害と入院・入所については、数値の解釈が難しいので、本稿では触れません。

以下統計学的に有意だった結果を紹介します。

1年間隔では、1999~2000年、2000~2001年、大三島町で自立の確率が高く、相良村で軽度障害の確率が高かった。1999~2000年、大三島町で軽度障害から自立に戻る確率が高く、相良村で軽度障害が維持される確率が高かった。2年間隔では、1999~2001年、大三島町で自立の確率が高く、相良村で軽度障害が維持される確率が高かった。2001~2003年、大三島町で自立から死亡に移行する確率が高かった。3・4年間隔では、2000~2003年、大三島町で死亡確率が高かった。1999~2003年、大三島町で死亡確率が高く、相良村で軽度障害が維持される確率が高かった。

結果をまとめると、大三島町では自立、死亡が共に多いこと、相良村では軽度障害が多く、それが維持されることが分かりました。医療・介護介入の少ない大三島町では、障害が発生した場合、その状況に耐えきれず、死亡しているため、機能障害が残りにくいと考えられます。大三島町の状況は悲惨なことかもしれませんが、介護に頼り過ぎない生活をめざせば、ピンピンコロリ型で老いていく可能性が高いという解釈も可能です。特筆すべきは、1999~2000年、大三島町で軽度障害から自立に戻る確率が相良村より高かったことです。

大三島型社会で死を迎えるには

大三島町と相良村の状況を説明した上で、「あなたは大三島型と相良型の、どちらのタイプの老い方、死に方をしたいですか」と尋ねると、驚いたことに、ほとんどの人が大三島型を希望されます。

これまでの日本社会は、相良村のような豊富な医療・介護サービスを高齢者に提供することをめざしてきました。しかし今後、激増する高齢者に対して豊富な医療・介護サービスを提供する社会の余裕がなくなっていきます。社会全体が、いわば大三島的な状況に近づいていきます。

大三島型の社会が不可避だとすれば「できる限り自立を続ける覚悟と、食べられなくなった時に、自然死を受け容れる覚悟」を持つことが重要になります。このような覚悟ができているならば、「適切に医療・介護の提供量が減らされる」ことは、自分の望むような老い方、死に方ができる可能性を逆に高めるので、必ずしも悪い話ではありません。

文献
1. 高橋泰, 緒方俊一郎, 大河内二朗: 自立から死亡までのプロセスとコストの分析に関する研究. 平成15年度総括研究報告書.厚生科学研究補助金, 長寿科学総合研究事業.


高橋泰: 医療・介護の提供量が少なくなると、老い方、死に方はどのように変わるのか. Socinnov, 2, e4, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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