医者の出す薬は効くのか: 多剤投与の害悪

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (17)

小野沢滋
北里大学病院トータルサポートセンター長


ある時、外来に来たお年寄りが「私食べるほど薬を飲んでいるんです」と、おっしゃいます。彼女は、16種類の薬を2つのクリニックからもらっていました。降圧剤2種類、胃蠕動改善薬、下剤2種類、筋緊張緩和剤、鎮痛剤、消化性潰瘍治療薬、高脂血症治療薬、健胃消化剤、ビタミンB12、ビタミンB1、骨粗鬆症治療薬、カルシウム剤、ビタミンD製剤、抗アレルギー薬です。

こうして並べると、そんなに必要なの、と多くの人が思うでしょう。しかし、こういった処方を受けている高齢者は少なくありません。野本らが日本の中規模病院における後期高齢者の処方を検討した2011年の論文[1]では、約20%が10種類以上の処方を受けていました。これは、日本に限ったことではなく、スウェーデンの論文[2]でも、2005年から2008年にかけて多剤投与の頻度は増加しており、2007年と2008年には80歳以上の全高齢者の14%以上が10種類を超える薬剤を処方されていました。

評価の問題

さて、はじめの症例に戻りましょう。この処方を見ると、おおよそどんなことがその患者と主治医の間に起きたのか想像できますし、効果が評価されていないであろうこともよく分かります。

多分、こんな具合なのでしょう。肩が凝るんです、と言われ、鎮痛剤と筋緊張緩和剤、鎮痛剤の副作用防止のための消化性潰瘍治療薬、さらに手がしびれる、ということで、ビタミンB12、だるいと言うのでビタミンB1、腰が痛いと言ったので、骨粗鬆症治療薬、カルシウム剤とビタミンD。高血圧があったので、降圧剤2種類、かゆみか鼻水でアレルギーかもと抗アレルギー剤というところでしょうか。もちろん、下剤は必要があれば、お年寄りには出さないといけません。外来は時間がないので、カルテには「ditto」もしくは「do」(いずれも同前の意)と書くだけ。もちろん処方せんは以前のコピーにサインのみです。実は、処方の見直しなど全くしていない可能性があるのです。

はっきり言えば、この方の飲んでいる薬の半分は効くのか怪しい薬です。下剤も本当に必要かどうか甚だ怪しいと思います。肩凝りや腰痛に対しては、体操や運動を勧めた方が、はるかに効果が上がるはずですし、便秘も改善するかもしれません。彼女に必要なのは、薬ではなく、家庭菜園なのです。

相互作用の問題

多剤投与には、この症例のように、効果があるか分からない対症療法薬が大量に入っている場合と、実際に重篤な疾患が複数あってやむを得ず10種類を超えてしまっているものとがあります。例えば、糖尿病に虚血性心疾患を合併し、さらに心不全を繰り返している、その上、慢性関節リウマチにもなってしまった、という場合などは、多剤投与は避けられません。

しかし、そういったやむを得ないとも言える多剤投与例に問題がないかといえば、あるのです。薬剤同士の相互作用の問題です。多くの薬剤は肝臓や腸管壁で代謝を受けて体循環に入ります。そして薬物を代謝する酵素は有限で、しかも種類は薬の数ほど多くないのです。つまり、同じ酵素で分解される薬剤が数多く存在します。また、開発時に薬剤の効果を判定する場合、相互作用を避けるため、他の薬剤の併用をできるだけ避けます。10種類もの薬を飲んだ上でさらに追加で効果があるかについて臨床試験は成り立たちません。つまり、多剤投与時にどれほどの量の薬剤が血液に取り込まれるのか、作用や副作用がどのように変わるのか正確には分かっていないのです。

副作用の問題

副作用はもっと重大な問題です。ある人は、私たちの所に認知症という触れ込みで紹介され、私たちもそれを疑わずに在宅医療で数年間フォローしていました。ある時、2年以上痙攣がないので、抗痙攣剤はすべて中止してみようということになりました。驚いたことに、それだけで彼女は店番をできるまでになったのです。それまで認知症だと思っていた症状は単なる抗痙攣剤による意識変容だったのです。カナダの健康情報協会が出した2013年のレポート[3]によれば、薬剤の副作用によって1年間で全高齢者の200人に1人が入院しています。

外来での大きな稼ぎ頭の1つである高脂血症について見ると、内科医という商売はまじない師に似ていると思ってしまいます。「NIPPON DATA 80」を見る限り、合併症がない日本人女性にスタチンを飲ませる意味はほとんどないように感じます。それでも、医師は外来に来た女性に「将来心筋梗塞になるかもしれませんよ」と不安を煽り、定期的な外来受診や食事制限を勧め、ありがたい薬を処方します。だるいと言われれば、効果がないと知りつつ、お守り代わりのビタミン剤を渡すのです。人間を研究している宇宙人がいたら、大した病気でもないのに患者の不安を煽り、何の反省もなく15種類もの薬を平気で処方し続けている医師と、まじない師とを見分けることは困難でしょう。

私たち医師は、漫然と処方してはならず、常に処方を見直し続ける必要があります。調剤薬局の薬剤師は、せっかくお薬手帳を配っているのですから、多剤処方についてきちんと医師に意見を述べ、この問題についてのイニシアティブを取るぐらいの意欲を見せてほしいと思います。患者に薬の中にはあまり効かないものが多いのだときちんと伝え、多剤投与を許さない風土を作ることも必要です。

文献
1. 野本愼一, 中西由佳: 中規模一般病院における後期高齢者に対する処方実態. 日本老年医学会雑誌, 48, 276-281, 2011.
2. Hovstadius B, Hovstadius K, Åstrand B, Petersson G: Increasing polypharmacy – an individual-based study of the Swedish population 2005-2008. BMC Clinical Pharmacology, 10, 16, 2010.
3. Canadian Institute for Health Information: Adverse Drug Reaction-Related Hospitalizations Among Seniors, 2006 to 2011. 2013.


小野沢滋: 医者の出す薬は効くのか: 多剤投与の害悪. Socinnov, 2, e3, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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