看護学生寮併設高齢者向け住宅: フローレンスガーデンハイツ

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (35)

大瀬律子
社会福祉法人太陽会安房地域医療センター医療技術部リハビリテーション室作業療法士
(聞き手・熊田梨恵)


2014年4月に開校した安房医療福祉専門学校の看護学生寮「フローレンスガーデン」は、2012年に撤退が決まった半導体メーカーの工場の独身寮を転用したものです。2014年11月現在、この1階部分を高齢者向け住宅として改修しています。基本的には普通の集合住宅ですが、生活上のあらゆることを相談できるワンストップ相談サービスの提供が予定されています。加えて、独居の高齢者が陥りやすい孤立や孤独の問題に対し、同じ入居者である看護学生、さらには地域住民との交流が計画されています。

熊田 大瀬さんは、安房地域医療センターで作業療法士として勤務しながら、フローレンスガーデンプロジェクトに携わっておられますね。

大瀬 はい。最近は1人暮らしの高齢者が増えています。生活のこまごまとしたことが面倒になったり、寂しかったり、必ずしも楽な生活ではありません。フローレンスガーデンでは、こうした高齢者が若い人たちと交流しながら、自由に、しかも、安心して生活できるようにしたいと考えています。

熊田 その生活を実現するために、フローレンスガーデンではどのようなサービスを考えておられるのですか。

大瀬 根幹となるのが、あらゆる困り事に応じるワンストップ相談サービスです。担当者は、全く新しいサービスを開発すると意気込んでいます。

熊田 具体的にはどんなことをするのでしょうか。

大瀬 例えば高齢の方がテレビを買いたいと思っても、最近の機種が苦手でつい足が重くなることがあると思います。そこで、必要があれば電気屋さんに同行して、新しいテレビの特徴や使い方について一緒に説明を聞きます。最近の機種は、スイッチの使い方なども高齢者には難しいので、慣れるまで教えてあげないと使いこなせません。また、何とか工夫して実現したいのが財産管理です。これも高齢者の苦手分野です。銀行、弁護士などを巻き込んで、複数の立場による相互監視などを盛り込んだ合理的な規格を作ることができれば、サービスの提供が可能ではないかと担当者は考えています。キーパーソンのいない方では、死後の後始末も相談しなければなりません。

熊田 財産管理までしてもらえるようになるのであれば、入居される方も安心だと思います。大瀬さんは、作業療法士として部屋の改修計画に携わられました。

大瀬 居室内のトイレのドアを引き戸にし、スペースを広くして手すりも付け、介助しやすいようにしました。お風呂は0.75坪の狭いユニットバスですが、手すりと暖房を新たに付けて、より安全で暖かく、入りやすいようにしました。電球は交換の不要なLEDにして、コンロも安全に扱えるIHタイプにしています。また、車いすやベッドでも出入りしやすいように、メインの出入り口をベランダ側にしました。

熊田 独身寮ではベランダだったところを、玄関にしたということですか。

大瀬 ベランダに当たる部分を1メートルほど拡張してウッドデッキにして、スロープと階段を設置しました。日向ぼっこもできますし、車いすでの散歩もしやすくなります。救急車のストレッチャーも簡単に出入りできます。

熊田 作業療法士の大瀬さんならではのお仕事ですね。大瀬さんは、東日本大震災の被災地で活動されたと聞きました。

大瀬 震災後、南相馬市の病院に復興支援のため出向しました。被災地の仮設住宅は、玄関が狭くて段差があり、車いすで入れなかったり、ユニットバスが狭くて介助しづらかったりと、虚弱な高齢者には生活しづらい環境でした。震災と原発事故によって仕事や趣味、生きがいをなくして孤立し、引きこもっている方も多かったです。

熊田 南相馬では、若い人が域外に避難し、高齢者が取り残されたのですね。

大瀬 南相馬での経験がフローレンスガーデンプロジェクトを考える土台になっています。南相馬では、関係者の努力により、状況が徐々に改善していきました。サロンに集まる人や仮設住宅の周りにあるベンチで雑談する人が増え、新しいコミュニティが出来ていきました。戸数の少ない仮設住宅の方がうまくいっていたようです。

熊田 その時の経験が、今回活かされているのですね。

大瀬 南相馬での経験は、私の視野を大きく広げてくれました。フローレンスガーデンには、2棟の建物の間にテニスコート1面程度の空間があります。もともと駐車場だったのですが、ここを庭にします。入居者同士の憩いの場にするだけでなく、近所の子どもたちの遊び場にしたり、近隣住民が訪れる場にしていきたいです。看護学生も、高齢者から人生の知恵を教えてもらうことができると思います。もしヘルパーとして働きたいという学生がいれば、有償で働いてもらってもいいと思います。

熊田 リハビリの立場からのサービスは考えておられますか。

大瀬 介護予防教室を考えています。内臓疾患はともかく、運動器は努力で機能を温存できます。要介護になるまでの時間を延ばし、介護が必要になったらそれ以上介護度を上げないよう、個別のリハビリも実施できればと考えています。そのためにはいずれ、訪問リハビリもやりたいですね。

熊田 なるほど、自立生活を支えながらも、できなくなっていくことについてのサポートはしっかりしていくという、とても心強い住宅なのですね。

大瀬 年齢を重ねると今まで1人で解決できたことが段々とできなくなり、将来どうなるのか、不安が押し寄せてくることもあると思います。気ままな1人暮らしはよいのですが、孤独は決してよくありません。フローレンスガーデンはそこを解決したいと思って計画しました。入居した方が、必要な医療や介護を受けながらも、自立して地域住民と楽しく交流していけるよう、多くの人たちと知恵を出し合って改善を続け、よりよいサービスを作っていきたいと思っています。

熊田 看護学生寮の1階を利用した高齢者向け住宅という斬新な取り組みの中で、地域とのつながりを保ち、自立した生活を支えるために、あらゆる工夫をしておられることがよく分かりました。


大瀬律子: 看護学生寮併設高齢者向け住宅: フローレンスガーデンハイツ. Socinnov, 2, e21, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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