財産管理の規格化の必要性

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (34)

香田道丸
社会福祉法人太陽会安房地域医療センター安房地域総合相談センターセンター長, 千葉県中核地域生活支援センターひだまりセンター長
(聞き手・熊田梨恵)


熊田 香田さんがセンター長をされている「ひだまり」は、24時間365日体制で福祉相談や権利擁護などの業務を行う千葉県独自の施設で、館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町からなる安房地域をカバーしています。香田さん、安房地域の特徴を教えていただけますか。

香田 この地域は千葉県で最も過疎化、高齢化が進む地域です。貧困や介護者不在など様々な理由で生活が難しくなっている方が少なくありません。若者の就職先が限られているこの地域で、2012年に従業員約200名と600名の工場の閉鎖が決まりました。若者は雇用を求めて故郷を離れ、都会に出ることになり、高齢独居世帯の増加や過疎化に歯止めをかけられず、いわゆる限界集落があちこちに点在しています。

熊田 要介護状態になった方の面倒を見る人がいない場面もしばしば生じるというわけですね。

香田 キーパーソンになる家族が全くいないか、いても遠方で援助困難というケースは多いです。普段は地域のコミュニティの中で、誰かしら心配してくれるご近所さんがいて、何とか生活しています。しかし、お金の支払いが伴うことになると、他人は踏み込みにくくなります。

熊田 キーパーソンがいない場合、医療機関ではどういう問題が起こるのでしょう。

香田 医療費の支払いや、自宅退院が困難になるといった問題が度々浮上しています。入院患者の相談のうち、これまでは「自宅退院援助」が最も多かったのですが、最近では「今後の療養先決定援助」や「転院援助」、「施設入所援助」の割合が増大しています。自宅に戻れない傾向が目立つようになってきているんです。

熊田 身内がいないと困ったことが起こりそうですね。

香田 独居が困難と判断して、転院や施設入所を考えたとします。その場合、必要な費用を本人の口座から支払わなければなりません。ところが、身寄りのない高齢者が入院して精神機能が低下してくると、金銭管理どころか意思決定も困難になります。たとえ預金があっても、本人はキャッシュカードの暗証番号が分からなくなり、誤った暗証番号の入力を繰り返してキャッシュカードをロックされたりします。解除するにも、本人が銀行に赴いて手続きをしないと受け付けない仕組みになっています。本人が銀行に行っても、精神機能が低下しているので適切な手続きを踏むことができないわけです。通帳、印鑑があっても、他人では預金を下ろせません。これではどこの病院や施設も相談に乗ってくれません。この口座問題は出口のない堂々巡りで、まさに「缶詰があっても開けられず、飢えに苦しんでいる状態」です。

熊田 それは本当に困りますよね。事情を説明しても、金融機関は対応してくれないのでしょうか。

香田 金融機関の窓口は、「本人を守る」ことより「口座を守る」ことで終始徹底しています。本人以外が口座を動かすことを認めようとしません。この問題は、私がソーシャルワーカーになった20年前から現在に至るまで全く変わっておらず、金融機関は解決の手立てを講じようとしません。凍結された口座が多くなればなるほど資金運用しやすくなるのだろうかと勘繰りたくなります。団塊の世代が一気に高齢者になり、孤独死が社会問題となっている昨今、身寄りのない独居高齢者が増加することは明白です。金融機関も何らかの対策を講ずるべきだと思います。

熊田 こういう問題に対応するために成年後見制度があると思うのですが、どうでしょうか。

香田 そのはずでした。しかし、市長申立てで成年後見制度につなげようとしても、調査にこぎつけるまでに2~3カ月かかってしまいます。活動可能な成年後見人の数が絶対的に不足しています。そもそもわずかな年金収入のみの場合、成年後見人に回す費用を捻出できません。

熊田 生活保護につなげることはできないのでしょうか。

香田 本人が生活に困窮していても、年金自体は下りているので「収入あり」と見なされ、保護の対象外として取り合ってもらえないのです。

熊田 聞けば聞くほどひどい話だと思います。こういう状態を改善するために、具体的にどのようなシステムがあればいいと思いますか。

香田 口座の問題については、金融機関に預けた本人の預金を本人のために使えるようにするシステムを作るべきです。事前の調査などで信頼できる親族や後見人の不在が予測できる場合は、自らによる意思決定が困難になった事態を想定して、あらかじめ医療現場での「事前指示書」に準ずるような「指示書」を作成できるといいと思います。また「成年後見」や「任意後見」の申立てを推進するような制度改正を行ってもらいたいです。

熊田 地域包括ケアというと医療や介護のことばかり言われますが、高齢者の財産管理という分野で金融機関も関わるべきということですね。

香田 本音を申し上げると、行政や司法が絡むと致命的に遅くなります。規格化で迅速に対応できるようになれば非常にやりやすくなります。複数の立場の人間が関与して相互監視し、金銭的被害には刑事罰と保険で対応すればよいのではないでしょうか。金融機関、サービス提供者、ソーシャルワーカー、監視者をパッケージにして、手順を規格化すればルーチンワークになります。

熊田 高齢者の財産管理について、高齢者支援の現場で抱えている問題がよく分かりました。


香田道丸: 財産管理の規格化の必要性. Socinnov, 2, e20, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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