在宅医療の役割分担: 医師はどの程度役に立つのか

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (16)

小野沢滋
北里大学病院トータルサポートセンター長


現在、在宅での療養生活には、非常に多くの支え手が必要とされています。

ホームヘルパー、ケアマネジャー、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、入浴サービス事業者、宅配食事サービスなど、在宅医療に関わる職種を数え上げれば切りがありません。

今回はこれらの中から、医師、ホームヘルパー、ケアマネジャー、看護師について考えます。

医師の役割

私は、在宅療養での医師の役割を、土台のようなものだと思っています。家の土台は、必要な時には力を発揮しますが、必要ない時には、あるのかないのかすら分かりません。そして、住む人は暗黙のうちに、「うちの土台はちゃんとしているのだ」と信頼しています。まず、この暗黙の信頼に医師は応える必要があると思います。少なくとも、疼痛緩和についての知識や認知症の知識などは、専門職として恥ずかしくないレベルが求められます。

在宅医療に携わる医師は、時に聖職者に似た役割も求められます。家族のために、医師なりの方法で彼らの声に耳を傾け祈ります。

「先生、うちのお父さんはもう長くないのかね」「うん。そうかもしれないね。お父さんは、もう、つらいも何もない世界にいるのじゃないかな。きっとあなたの声は聞こえていると思います。触れてあげて、今までの色々なことに感謝してあげたら安心すると思いますよ」という具合です。

この役割は、特に悪性腫瘍の患者では非常に重要で、医師は症状を緩和する役割のみならず、聖職者としての機能を果たすことを求められます。

在宅療養の場では、医師が西洋医学の最大の成果である命を延ばす、という意味でできることには限りがありますし、実際そのこと自体にあまり意味はありません。在宅医療に携わる医師は、そのことを深く胸に刻む必要があるでしょう。

在宅医療を行っている医師の中には、月2回の訪問が必須だという人もいます。私は、その意見には賛成しかねます。普通の生活で医者が月に2回も自宅に来ることなど考えられないし、健全とも言えないと思うのです。しかもお金がかかります。

悪性腫瘍の末期や、神経難病で人工呼吸器を着けている場合、認知症で問題行動がひどく、コントロールの難しい場合、もしくは家族全体が不安定になり何らかの密な介入が必要な場合など、医師の介入が有効な場合はあります。しかし、他の職種と密に連携すれば医師が行わなければならないことは多くありません。むしろ、医師は他の職種の能力を高め、全体をコーディネートする役割を求められているのではないかと考えます。

介護職と看護師の役割

一般的な慢性期の在宅療養において、最も力が必要とされる職種は、間違いなく介護職です。

在宅で活躍する代表的な介護職は、ホームヘルパーとケアマネジャーです。

ホームヘルパーは、利用者の自宅に出向いて、利用者の生活を支えます。例えば、食事や、排泄、清潔を保つことなどです。利用者の生活の質はホームヘルパーによって大きく左右されます。ホームヘルパーは、常に利用者の近くにいて最も頻繁に接する職業です。日常の様子をよく分かっており、変化に気づきやすいという意味で家族に近い存在です。

ケアマネジャーは信頼できる助言者であり、時にはキーパーソンになります。彼らは、本人や介護者の本当の希望を引き出し、それに沿って介護を構築するという重大な役割を担っています。ですから、ケアマネジャーの質や倫理観は、在宅療養にとって極めて重要だと言えるでしょう。

ただ、現状は、特に都市部のケアマネジャーの一部は自分たちの事業所のセールスマンになってしまっている場合が少なくありません。極端な言い方をすれば、友人が狭い知識の中で、これがいい、と健康食品を勧めて、勧められた方は言われるままに買ってしまう、しかし、実はノルマがあって勧めている、というのに似た状況が見え隠れするのです。

では、訪問看護師はどのような役割を果たすのでしょうか。不安定な疾患を抱えた在宅療養者にとってはこの上なく重要な職種です。訪問看護師は場合によって週に3回程度訪問し、生活の安定を図ります。24時間対応で様々な相談に乗り、場合によっては真夜中に出向いて利用者を支えます。もちろん、医師や介護職、家族と協働で様々なことをするのですが、在宅という療養の場においては医師よりもはるかに重要な役割を担っています。

異なる職種の恊働

在宅医療の現場には、多くの職種が関わります。それらの職種が患者の幸せのために協働できる環境を創り出すことが最も難しく重要な作業になります。

この作業では、お互いに価値観や能力の違いを認め合った上で、その力を統合していくことが必要です。地域包括ケアの要はこれに尽きると思うのです。医師や行政など力の強い立場にいればいるほど、そのことを強く意識する必要があるのではないでしょうか。


小野沢滋: 在宅医療の役割分担: 医師はどの程度役に立つのか. Socinnov, 2, e2, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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