有償ワンストップ相談

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (33)

香田道丸
社会福祉法人太陽会安房地域医療センター安房地域総合相談センターセンター長, 千葉県中核地域生活支援センターひだまりセンター長
(聞き手・熊田梨恵)


熊田 長年相談業務をしておられると、医療や福祉に関係する行政サービスについて様々な思いや、制度の矛盾などをお感じだと思いますが、いかがでしょうか。

香田 色々とありますね。例えば、障害をお持ちの方が、福祉サービスを受けるために福祉課に相談に行くと、まず障害者認定を受けるため、身体障害者手帳の申請を勧められ、診断書を渡されます。診断書を指定医に書いてもらうために病院の予約を取りに出向き、予約日に受診すると、今度は検査日を予約しなければなりません。検査が終わって数週間から長いと数カ月待って、やっと病院に診断書を取りに行くと、今度は県の判定に数カ月かかると言われます。仕方なしに数カ月待っていると、福祉課から「渡した書類が間違っていました。正しいものをお渡ししますので、提出し直してください」と振り出しに戻る連絡があったりします。

熊田 それはちょっと大げさに話されているのではないですか。

香田 これは笑い話でも誇大に表現しているわけでもなく、ソーシャルワーカーならよく経験している話ですよ。日本の福祉はその言葉とは裏腹で、全く親切とは言えません。すべてが申請主義で、多くの手続きがあり、申請しなければ目の前のことでも全く対応せず、横のものを縦にもしようとしません。しかも、窓口に立つ担当者も専門職ではなく、昨日まで水道課など全く別の仕事をしていた人が対応していることも珍しくありません。そもそも自分が使えるサービスがあるということを知らないため、申請にたどり着けない方が地域には多くおられます。

熊田 積極的に情報を得て、かつ申請しなければならないとすると、かなり使い勝手が悪いように感じます。印象に残っている事例を教えていただけますか。

香田 私が医療ソーシャルワーカーになりたての頃、脳卒中で寝たきりになった64歳の男性の奥さんが介護相談に訪れました。話を聞いて、介護ベッドが必要だと思ったので、当時あった「老人日常生活用具給付」を受けるよう市役所の窓口を紹介しました。奥さんはバスやタクシーを乗り継いで市役所の窓口までたどり着きました。福祉課の担当者は、本人の年齢といつから寝たきりになったのかだけを尋ね、「この市では介護ベッドの給付は在宅で6カ月以上寝たきりの65歳以上の人が対象です」とだけ説明し、話は終わったというのです。

熊田 生活事情も聞かず、ただ年齢だけで給付されなかったということですか。

香田 そうです。私は直接福祉担当者に電話し、老人福祉法の対象はおおむね65歳以上であることや、本人の麻痺は重度で改善が望めず、経済的に余裕のないこの家に介護ベッドの給付は不可欠であること、在宅で6カ月以上寝たきりを放置していたら床ずれだらけになってしまうと何度も力説しましたが、「規則ですから」と言うだけでした。事前に交渉しておけばよかったと後悔しました。担当職員は、業務の効率化や、彼らにとって合理的でないと思われる予算を使わないことに精力を注ぎ込んでおり、クライアントのニーズに応えようとする姿勢がうかがえませんでした。

熊田 高齢者にとっては、複雑な制度を理解して適切な窓口を選び、手続きをするのは難しいと思います。窓口の担当者の姿勢は重要です。

香田 私の最も尊敬するソーシャルワーカーは、小さな町役場のケースワーカーでした。福祉課は少人数だったので、障害も児童も老人も生活保護も、何から何まで対応していました。彼は相談のあった方すべてを本当によく知っていましたし、心から心配していました。先ほどのケースとは真逆で、年度末の予算のない時に、介護ベッドや福祉用具の相談があった時は、必ずすぐに訪問して本人の現状を確認し、必要があれば3日以内にはベッドを搬入していました。「今年はもう予算ないでしょ」と尋ねると、「補正でできなけりゃ来年の予算に回すよ。必要なんだから」といつも笑って答えてくれました。しかし、予算に縛られる措置制度である限り、彼のような行動はなかなかとれるものではありません。

熊田 社会福祉法人太陽会では、看護学生寮に高齢者向け住宅を併設し、有償のワンストップ相談を提供するプロジェクトが進んでいて、香田さんはそのワンストップ相談業務を設計されていると聞きました。

香田 はい。この高齢者向け住宅には、1人暮らしで寂しかったり、心もとない方に入居していただきます。それぞれに担当するソーシャルワーカーが付き、顔なじみの関係を構築します。電球の交換やごみ捨て、買い物といったちょっとした相談から、病気や家族のこと、財産管理や看取りといった深刻なことまで、どんな相談でも受け付け、適切なサービスにつなぎます。プライバシーを尊重されながらも、寂しい思いをすることなく、困ったり悩んだりせずに、生きがいのある楽しい生活を送ってもらいたいんです。ワンストップ相談はこのプロジェクトの鍵となる重要なサービスです。常にご本人の状況を把握できれば、遠方に住むお子さんにも安心していただけます。

熊田 なるほど。これだとソーシャルワーカーのあり方が変わると思います。これまでよりずっと重要な立場になりますね。

香田 措置による福祉サービスには、どうしても上からの施しという気配が付きまといます。今考えているワンストップ相談は、契約による有償サービスです。受任者は善良なる管理者の注意義務をもって事に当たらなければなりません。双方が義務を負う対等な契約です。利用者の権利が尊重されやすい形です。利用者からのフィードバックを受けてサービスが改善されます。独居高齢者が増加の一途をたどり、孤独死が増え続けています。ワンストップ相談には大きなニーズがあります。中間層を対象に有償にすることで、税金を使うことなく、大きなニーズに応えられます。貧困層への措置も改善されるかもしれません。ここで形が出来れば、各地域に横展開していくこともできると思います。


香田道丸: 有償ワンストップ相談. Socinnov, 2, e19, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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