生活支援

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (32)

児玉照光
医療法人鉄蕉会亀田総合病院地域医療支援部総合相談室ソーシャルワーカー
(聞き手・熊田梨恵)


熊田 児玉さんは亀田総合病院で医療ソーシャルワーカーとして20年以上働いておられ、高齢者支援にも多く携わってこられました。高齢になって生活支援や介護が必要となった方には、介護保険によりこれらのサービスが提供されますが、生活支援サービスの幅が狭くて使いづらいという話を聞きます。その辺りはいかがでしょうか。

児玉 現在の介護保険制度では、要介護の方には食事、排泄、入浴の介助などの身体介護を中心にサービスが提供され、要支援の方には家事援助などの生活支援を中心にサービスが提供されます。ただし、生活支援は非常に個別性が高く、利用者の希望内容も実に様々です。多数の人が集まって共通のリスクを分散する保険という仕組みでカバーしきれないのは仕方がない面があります。介護保険制度では、生活支援サービスは、普段使用している室内、浴室、トイレの掃除や、買い物、調理、洗濯などに限定されています。

熊田 制度開始当初、掃除するにも利用者の部屋と家族の居室が一緒なのでどうしたらいいかとか、他の家族と本人の分を分けて料理するのが難しいとか、色々問題になりましたね。

児玉 生活上のことをスパッと線引きするのは難しいです。他にも高齢になると、重いものが持てない、高い所に手が届かない、文字が見えづらい、市の緊急放送が聞こえないなど、生活に直結したことで困ることはたくさんあります。しかし、こういうタイプの悩みに、時間単位で提供される介護保険サービスはなじみません。

熊田 私の実家の両親は80歳になりますが、請求書が届いているのに見ていなくて電話を止められてしまったり、気づいたら銀行印がなくなっていたり、ということがありました。帰るたびに色々な手続きを代わりにしていますが、ヘルパーさんに頼める類のことでもないので悩んでいます。

児玉 他にも高齢者にとって誰かの手を借りたいことは色々あります。電球の交換、リモコンの操作や電池交換、庭の草取り、薬の管理、郵便物の仕分け、回覧板を回す、市役所などへの申請手続き、ATMからの出金、通信販売で購入した代金の振り込み、背中に湿布を貼りたい、犬の散歩、粗大ごみの処分や玄関掃除とか、本当にたくさんあります。

熊田 皆さん、どうされているのでしょうか。

児玉 お金に余裕のある方なら、自費で家政婦を雇うか民間の家事援助サービスを頼めば、先ほど話したようなことは大体やってもらえます。地域によって内容は違いますが、NPOやシルバー人材センターなども色々なサービスを提供しています。

熊田 お金のある方なら何とかできると思いますけど、年金でぎりぎりの生活をしているような方はそうはいきませんよね。

児玉 同居の家族がいなくても、地域でのご近所付き合いがあれば、互いに自立して助け合えている間は、ある程度何とかなっていると感じます。ただし、近所付き合いは信頼関係に基づくものですから、1対1の関係だと最悪の場合、どちらかが騙されていたとしても誰にも分からない、ということが起こり得ます。また、良好な関係が保たれていたとしても、一方が病気や障害によって要介護状態になるとそうはいきません。一方が意思疎通不能の状態になったら、金銭の貸し借りなどがあっても、警察でも入らない限り第3者では事実がつかめなくなることもあります。

熊田 介護保険が使えない場合は、自費でサービスを頼むか、ご近所を頼るか、という状態なのですね。介護保険制度の中で、もう少し融通を利かせられないのでしょうか。

児玉 介護保険制度の家事援助は、最低限の衣食住をカバーしているだけで、例えば季節柄必要になるエアコンや加湿器のフィルター清掃、扇風機や暖房器具の出し入れ、灯油の買い出しなどイレギュラーなことはカバーしていません。でもこういうことは、生活を送る上で必要です。

熊田 何か工夫できればいいですよね。

児玉 ある訪問介護事業所から聞いた話ですが、冬になると灯油を購入したいという人が増えます。皆さん「安い店に買いに行ってほしい」とヘルパーさんに頼むのですが、介護保険で1割の自己負担を支払うより配達の方が安かったりします。だから、事業所の方で灯油を買いたいという人へ配達してくれるお店を紹介したそうです。

熊田 現在あるサービスを前提に工夫したということですね。他にもそういう事例はありますか。

児玉 天気のいい日は布団を干したくなりますよね。でもヘルパーさんの滞在時間内では、1時間も干せなかったりします。ある事業所では、融通を利かせて1時間のサービスを分けて使っていました。午前中に布団を干して、45分ぐらいで1度引き揚げ、午後に残りの15分を使って取り入れに行っていました。ただし、管理者の裁量で行っているので、他の事業所にそうしてほしいとは言えません。ヘルパーの移動時間も倍かかっています。

熊田 やはり介護保険制度の中では限界がありますね。

児玉 生活上のちょっとした相談や手伝いのニーズは非常に多いです。少なくとも、資産のある人たちについては、介護保険外の有償サービスで提供するしかありません。これを合理的でより使いやすいものにする体系的な努力が必要です。

熊田 低所得者の方は難しいですね。

児玉 個人的には、生活支援サービスの中で、介護保険ではカバーしていない正月やクリスマスの飾り付け、季節行事の料理など生活に楽しみを見出せるようなプラスアルファのことも考えてもらいたいです。

熊田 よく考えると、同じ介護保険を使っていても、施設に入所していれば季節行事があって料理などを提供されることが多いのに、訪問介護ではできないというのは不公平感がありますね。

児玉 ご近所付き合いの中で、おかずを分けてもらう時にタッパーを借りたりしますが、動きづらい方だとなかなか返しに行けません。こういうサービスがあれば、例えば、お礼のお菓子を詰めてその日に返すなど、ご近所付き合いを保つのに役立つと思うのです。生活支援サービスは、ただ生きていくためだけでなく、季節感を感じられたり、地域での人間関係を保ったり、生活を充実させるために必要です。高齢者が増える地域ではなおさら大切なことだと思います。


児玉照光: 生活支援. Socinnov, 2, e18, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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