地域での集団による見守りの試み: ららカフェの取り組みから

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (28)

渡邉姿保子
杉並区地域包括支援センターケア24松ノ木(社会医療法人河北医療財団河北地域ケア事業部医療介護生活支援部)
(聞き手・熊田梨恵)


熊田 今後高齢者はますます増加し、地域で独居という方も増えていくと思います。孤立し、支援を必要とする高齢者は、自ら支援を要請できないことがよくあります。自分が支援を必要としていることすら理解していないことも多いです。貯金があっても自分でお金を引き出せなくなって生活に困る方が多くいるのに、個人情報保護が壁になって、そういう方がどこにいるのかつかみにくいのが地域の実態だと思います。地域医療学講座ディレクターの小松は、2010年の初め頃、東京都杉並区の河北家庭医療学センターでケアマネジャーとして働く知人から「積極的待機」と「多段階接触」という言葉を聞いて感心したそうです。何度も訪問して、隙あらば支援を要請させるように持っていくんだそうです。そのために、段階を追って本人に接触して、だんだん親しくなっていくそうです。杉並区では2010年の高齢者所在不明問題の後、高齢者への訪問活動が始まり、ソーシャルワーカーの活動がだいぶ楽になったと聞きました。渡邉さんもソーシャルワーカーとして活動しておられますが、いかがでしょうか。

渡邉 杉並区の取り組みは、申請を待つだけでなくこちらから出向き、地域の中で日常的に相談できる関係を作って、支援のニーズを把握しようというものです。介護保険サービスを受けていない区内在住の75歳以上の高齢者を訪問する「安心おたっしゃ訪問」という制度で、区から私が所属する地域包括支援センターに活動を委託されています。これにより、対象者を必要な支援につないだり、継続して状況を把握したりすることができ、活動しやすくなりました。

熊田 積極的待機と多段階接触は、1対1の関係ですが、これを多数対多数で行おうと取り組んでいらっしゃるとうかがいました。

渡邉 私たちは地域の方々と一緒に「ららカフェ」というコミュニティカフェを作りました。杉並区には配食サービスや登録ボランティアによる見守りの制度があります。民間でも、見守り機能のある機器やサービスが作られ、個人的に活用する人が増えています。一方で、地域の近所付き合いは減り、町会や敬老会の組織率は年々低下しています。そこで互助の力を見直そうという動きが出てきました。私たちは、自助、互助、共助、公助のすべてが活発に機能することが必要だと考えています。ららカフェはその取り組みの1つです。

熊田 今は色々な地域にコミュニティカフェが出来ています。ららカフェの特徴は何でしょうか。

渡邉 地域の中での役割や地域との関係が再構築されるという側面です。行政の見守りサービスは行政が内容を決め、市民にその決められた内容を委託する1方向的なものです。カフェの場合は、市民が地域づくりの主体として自ら運営し、内容を工夫します。地域は人材の宝庫で、団塊世代には会社勤めを終えた企業の各部門のプロ、料理上手な主婦、クリエイティブな自営業、研究者など様々な方がおられますが、点在しているのです。その皆さんがカフェをきっかけにして出会い、お互いを尊重しながら「したいこと」や「できること」を率直に語り合います。その中でノルディックウォークやコーラスなどの活動が始まりました。カフェ運営に関わる中で自分の役割を見出し、生活に活気を取り戻される方がいます。退職後役割がなく家に閉じこもりがちだった方が、出版の経験を活かしてチラシ作りに関わり、見違えるように生き生きとなられたりしました。高齢だからといって、皆が人に世話されることばかり望んでいるわけではありません。それよりも、仲間と健康に楽しく生活したい、社会貢献したい、社会の認知を得たいという意欲のある方が多いです。地域に暮らす人間同士の対等な関係から生まれるやりがいや楽しさという求心力が、特徴だと思っています。

熊田 なるほど、カフェの中で新しい役割を見出して活動している人たち、その魅力がさらに人を集めるのですね。渡邉さんが中心になって作られたのですか。

渡邉 立ち上げはノウハウのあるNPO法人や地域包括支援センターが中心的な役割を担いましたが、地域住民が責任を持って運営することを目標とし、今ではそうなっています。運営会議メンバーとして近隣の民生委員や町会、商店会、見守りボランティア、介護従事者、行政、医師、老人クラブなど様々な方に声をかけて始めました。

熊田 そのカフェが、どんな風に高齢者の見守りを行うのですか。

渡邉 見守りの役割を初めからめざしていたというわけではなく、活動の中でその機能も持っていることに気づいたと言えます。1つは、カフェ運営に関わるメンバー同士が、お互いの事情や考えを理解し合い、支援する側になったり、時には仲間の助けも借りたりして、「ケアし合う関係」が築かれました。2つ目に、メンバーの中から、いざという時地域で助け合えるよう、参加者の名前や連絡先を知らせ合おうという声が上がりました。活動を通して地域の人々に対するメンバーの関心が高まり、関わり合いの模索が始まっています。3つ目は、認知機能の低下や社会とのつながりが薄くなっているなど、専門職の対応が必要だと思われる方については、毎月1度開催されるボランティアグループ運営会議で、地域包括支援センターに紹介されます。多くの高齢者は、いざ支援が必要な時に声を上げることができません。周りの人が「今、支援が必要だ」と気づき、動くことでソーシャルワーカーにつながります。

熊田 なるほど。でも、あまり干渉されたくない人もいるんじゃないでしょうか。

渡邉 区別して考えることが必要だと思っています。社会から孤立しているために、要介護状態でありながら、サービスを受けられていない人たちは、消費者被害にも遭いやすく、専門職の介入が必要です。一方で、ららカフェに来られる方々は、カフェで人間関係が出来るので、何かあったら私たちやサービスにつながりやすいですし、活動に参加して積極的に生活を楽しむことができます。地域で1人で生活するとしても、いざという時のつながりがあるのかないのか、それを見極める機会の1つとして、カフェ活動が機能することが分かりました。

熊田 高齢者に向けた積極的待機と多段階接触という見守り方があり、カフェを作ることによって多数対多数でそれを行えることが分かりました。


渡邉姿保子: 地域での集団による見守りの試み: ららカフェの取り組みから. Socinnov, 2, e14, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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