孤独死は減らせるのか

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (27)

小野沢滋
北里大学病院トータルサポートセンター長


先日、85歳の女性の患者さんがしきりに「先生うかぶのだけは困るから」「あたしは、うかびたくないから」と言うのです。「うかぶ」とはどういう意味なのか、しばし悩みました。歳も歳ですから、死んだ後に浮かばれないのは嫌だ、というのならまだ分かりますが、浮かびたくない、のですから、よく分かりません。

何となくピンときて、「さっきから、うかびたくないっておっしゃられていますけど、風呂場で具合が悪くなって、風呂桶に浮かぶのは嫌だってことですか」と聞いてみました。その通りでした。高齢者の中にはこういった不安を抱えている人は少なくありません。

日本全体で見ると、自宅で亡くなる人は、長い間減少し続けてきたのですが、2005年頃を境に、わずかですが増加傾向に転じました。は、2013年の死亡場所に自宅が占める割合の上位、下位それぞれ10都道府県です。地域ごとの差が非常に大きいことが分かります。上位の都道府県の多くは関東または近畿の大都市を抱えている都道府県で、下位の都道府県の多くは、九州、北陸、北海道にありました。

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田舎はコミュニティがしっかりしていて、在宅死が多く、逆に都市部では在宅死がかなわない、というわけではなさそうです。

在宅医療が普及したので、自宅死亡が増加した、と考えがちですが、実際はどうなのでしょうか。

在宅死と孤独死

2013年の「人口動態調査」によれば、東京都区部の死亡数は、7万5332人、うち自宅で亡くなったのは1万3467人でした。2013年の「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計」(東京都区部孤独死統計)によれば、そのうち、東京都監察医務院による検案の対象となった死亡、すなわち、診療を伴わない病死および外因死が7440件、そして独居者の自宅での診療を伴わない病死および外因死、つまり孤独死が4515件でした。つまり、死亡場所「自宅」のうち34%が孤独死だったということになります。

先ほどのデータと東京都の現実を考え合わせると、在宅死が都市部で多い理由の1つが孤独死の増加にあるのではないかという疑念が浮かびます。

過去10年間の東京都区部での孤独死数の推移を東京都区部孤独死統計から見てみましょう(図1)。2003年から2013年までの11年間で、男性の孤独死は1985人から3090人に、女性の孤独死は876人から1425人に増加しました。特に、65歳以上の高齢者での増加は顕著で、男性で799人から1740人と倍以上、女性で642人から1129人とこれも倍近くにまで増加しました(図2)。この間、全死亡数はここまで増加しなかったので、65歳以上の全死亡に対して孤独死が占める割合も、男性で、3.2%から5.3%へ、女性で2.7%から3.6%に増加したのです(図3)。

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vol2e13figure3孤独死について詳細なデータが公表されているのは東京都区部のみで、他の地域の状況は分からないのですが、全国的に都市部では似たような状況にあると思われます。

孤独死と社会的孤立

それでは、孤独死の増加それ自体が問題なのでしょうか。急死は少なからずあり、防ぐことはできません。独居を認める限り、孤独死をゼロにすることは不可能です。私は、社会との接点が維持されていれば、自ら独居を選択して生活し、亡くなることを全く否定しませんし、むしろ自立した死として積極的に受け容れたいと思います。問題は、孤独死の増加というよりも、長期間発見されない孤独死の増加にあると思うのです。

2013年の東京都区部孤独死統計によれば、発見から4日以上かかった孤独死は男性53.6%、女性で34%でした。この数値から相当数の独居者が、何日間も誰とも口をきかない孤立した生活を送っていたと想像されます。

都市部にこういった状況が生まれる背景は、様々な政策と無縁ではないような気がします。高齢者対策として主に行われてきたのは、在宅医療に予算を付けたり、介護施設を作ったり、もしくはサービス付き高齢者向け住宅の建設に補助金を出したり、優遇したりという取り組みです。これも一方では必要でしょう。しかし、これらの取り組みの多くは、そこにたどり着ける人には安心を提供しますが、社会との接点を持てずに孤立した人をいかに減らすのか、という部分については無力です。

社会福祉協議会は「サロン」といわれる高齢者の集まりを企画しています。私も何度か参加していますが、参加者のほとんどは女性です。男性は20名中1~2名程度です。「サロン」では、参加しない人をどうにもできません。このことと、男性の孤独死が多いこととは無縁ではないでしょう。

社会的包摂

国立社会保障・人口問題研究所の2014年4月推計によれば、全国で高齢者人口に占める独居高齢者の割合が増え続けます。東京都では、2010年には65歳以上人口に占める独居者の割合は24.2%でした。東京都の65歳以上の独居高齢者数は2010年の64万7000人から、2025年には89万人にまで増加します。75歳以上になると要介護者が増えます。東京都の75歳以上の独居高齢者数は、2010年の33万6000人から、2025年には、56万5000人にまで増加します。首都圏は全国で最も介護施設の足りない地域です。現状のままだと長期間発見されない孤独死が大幅に増加します。

私たちの今のサービス体系はともすれば、高齢者を通常の社会から分離することで、安全を確保するという方向に向かいがちです。サービス付き高齢者向け住宅などはその顕著な例でしょう。しかし、その方向だけでは、人は幸せにはなれないのではないでしょうか。今こそ、シャイで自分の殻にこもりがちな人たちを、社会の中に包摂していく仕組みが求められているのではないでしょうか。自立しつつも、何らかの社会活動に参加し、最期の時まで人間関係の中で自分の居場所が確保される。このことが実現できれば、孤独死になっても、比較的短期間で発見されるはずです。難しいことですが、都市ではこれが特に求められていると思います。

はじめの人の話に戻ると、彼女は近所の人に鍵を預け、雨戸が開かなかったら見に来てくれるように頼んでいるそうです。また、毎日、姉妹と電話し合っているということでした。つまり、彼女が亡くなれば24時間以内に見つかることになりますし、社会との接点は強く密に保たれています。医師として私が彼女に言うべきなのは、そういった状況は幸せで、悲観すべきことではなく、堂々と1人で亡くなるなら、こんなに良いことはないという助言でしょう。


小野沢滋: 孤独死は減らせるのか. Socinnov, 2, e13, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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