認知症に対する多職種チームによる訪問支援

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (26)

澤滋
医療法人鉄蕉会亀田総合病院心療内科・精神科医師


医学モデルと生活モデル

朝田らの報告[1]では、日本の65歳以上の高齢者人口の15%、2010年時点で440万人が認知症だと推定されました。認知症患者の尊厳を保ちつつ生活を支える上で、病気の状態からそうでない状態に戻すことをめざす医学モデルには限界があります。近年、社会福祉の分野で重要視されている生活モデルによるアプローチとの協働が求められます。生活モデルでは、病者や障害者の生活の改善を重視します。

英語の「reach out」は援助の手を差し伸べるという意味です。これを名詞化したアウトリーチは、福祉領域で、訪問支援という意味で使われています。現在、認知症患者とその家族を、彼らの生活の場に出向いて支えようという動きが広まりつつあります。

医学モデルの限界

受診を待っていると遅れる

従来の医療では、患者側が積極的に病院を受診しない限り、サービスが開始されませんでした。夫婦そろって認知症だと、病院を受診するという行動を取れず、生活支援を積極的に求めることもできません。外来受診を待って介入するのでは、遅れが生じ、悲惨な事故が起きかねません。認知症が進行する過程で見られる抑うつや不安、徘徊といった周辺症状が生じると、介護者の負担は増大します。医療機関を受診する時には、既に家族が疲れ果てているため、入院させざるを得ません。家族が疲弊しているほど、自宅に戻すのが困難になります。

医療機関では生活情報が得にくい

さらに診療の場面で得られる情報には限界があります。生活を支えるという観点からは、金銭管理や家事などの遂行能力が維持されているかどうかを評価することが大切です。普段同居している家族ならまだしも、普段一緒に住んでいない家族に連れられて医療機関を受診しても得られる情報は限られています。

入院を経由すると生活の場に戻しにくい

現在、認知症について、病院で現状の評価と必要に応じた治療を行った後に、介護を中心とした地域サービスへ移行するという流れが想定されています。しかし、入院治療で周辺症状が軽減したとしても、認知症そのものがよくなることはありません。このため、認知症患者の退院先を確保するのは簡単ではないのです。入院で負担から解放された家族は、患者を受け入れたがりません。高齢者の入所施設は利用者であふれ、待機期間が長期化しています。そもそも、医療機関への入院は環境変化が大きいため、たとえ短期間であっても、しばしば認知症の周辺症状を増悪させます。入院医療の後、生活現場で福祉が支援するというスキームには無理があります。

多職種チームによる訪問支援(アウトリーチ)

現在、全国で認知症疾患医療センターが整備されつつあります。地域包括支援センターと協力しながら、かかりつけ医や地域の介護・福祉サービスと連携することが期待されています。しかし、一部例外はありますが、患者側が自ら積極的に受診したり、支援を求めたりしない限り、サービスが開始されません。

カナダでは、多職種からなる認知症の訪問支援チームが、患者の生活の場で診療や支援をする試みが進んでいます。筆者は2008年から2年間カナダに留学しました。その間の数カ月、この取り組みを学ぶ機会を得ました。この経験から、日本における訪問支援について考えてみます。

まず、認知症疾患医療センターの機能を拡充して、本人、家族、友人、隣人からの情報を地域で一元的に把握できるようにすべきです。情報収集と支援開始にあたって、人権侵害が生じないよう、細やかな配慮が必要であることは言うまでもありません。センターにはソーシャルワーカー、ケアマネジャー、保健師、認知症の診療に精通した医師など多職種が所属します。チームで患者の生活の場である自宅や入所施設に出向き、評価や介入を行います。提携している医療機関の医師や他のスタッフが訪問に同行できれば有益です。生活の場で認知機能評価を行うことで、生活に直結した情報が得られます。身体的な問題で短期間入院するのはやむを得ませんが、認知症や周辺症状に関しては、可能な限り「もともと住んでいる場所」で治療が可能かどうかを検討すべきです。進行した認知症については、家族の負担が大きいので、施設への入所を考慮せざるを得ません。

サービスを向上させるために、医療と福祉の密接な連携が必要です。連携を高めるための方法として、行政がセンターにお墨付きと権限を与える、あるいは、厚生労働省が提唱しているように医療・福祉を広くカバーする「ホールディングカンパニー」で全体のサービスを統合することなどが考えられます。しかし、上意下達の階層型コントロールだけでは、きめ細かな連携は難しいでしょう。従来言われているように、様々な機関の現場の実務者が、顔の見える関係を構築して、横の連絡を密にすることが何より重要です。

多職種チームによる訪問支援を増やしていくためには、診療報酬による誘導が望まれます。日本でも、一部の先進的地域では、こうした取り組みが開始されていますが、システムとして安定的に継続させるためには、経済的な裏付けが必須です。経済的裏付けがなければ、マンパワーを確保できません。

認知症は老いに伴う疾患です。認知症についての議論は、どのように最期を迎えていくのかについての議論と切り離せません。「認知症が悪化したため入院したものの、その後転倒による骨折や肺炎で退院が困難となり、何とか見つけた退院先の施設へ移るためには胃ろうを造らないといけない」、このような流れを変えていくためには、社会全体で、早期から老いや死を自分の問題として考えていくことが必要です。

文献
1. 朝田隆, 泰羅雅登, 石合純夫, 清原裕, 池田学, 諏訪さゆり, 角間辰之: 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応. 平成 24年度総括・分担研究報告書. 厚生労働科学研究費補助金, 認知症対策総合研究事業.


澤滋: 認知症に対する多職種チームによる訪問支援. Socinnov, 2, e12, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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