在宅医療の歴史: 看取りの変化

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (15)

平原佐斗司
東京ふれあい医療生活協同組合副理事長, 梶原診療所在宅総合ケアセンター長


従来、医療の主たる形態は、患者が医師宅に通院する宅診(外来)と医師が患家に出向く往診の2つでした。今では医療の代名詞と言える入院医療は、先進各国では20世紀になってから、我が国においては20世紀後半、とりわけ第2次大戦後に飛躍的に発展した新しい形態です。

終戦直後

終戦直後の日本人の主な死因は、肺炎、胃腸炎、結核などの感染症と脳卒中でしたが、当時このような疾患の急性期には安静が第1と信じられており、医師を自宅に呼ぶ往診が医療のスタンダードな形態として広く普及していました。当時は3世代同居が普通のことであり、急病人の介護は主婦の役割であり、「家」には今以上の存在感がありました。1950年の死亡者のうち、67.5%が64歳以下でした。多くは子どもや働き盛りの人で、その8割以上が自宅で死亡していたのです。当時の標準的な在宅医療は急性疾患に対しての臨時往診であり、現在の訪問診療とは全く異なるものでした。入院医療については、施設が少ない上に、質が現在とは比較にならないほど悪い状況でした。また、医療保険制度もない中で、多くの国民は経済的にも入院が困難でした。

昭和の終わりまで

社会環境の整備と抗菌薬の進歩によって、感染症や結核による死亡は急速に減少し、代わって脳卒中による死亡が増加しました。脳卒中は、1951年から1980年まで長らく日本人の死因第1位を占めました。

治療の学術的根拠が集積され始め、それまで多くが死亡していた脳卒中患者も、早期に治療すれば救命できることが明らかになりました。全身麻酔手術や各種検査方法が発展して入院医療の質が飛躍的に向上し、急性期における入院医療の優位性が明らかになりました。1961年には国民皆保険が始まり、救急医療の整備や自動車の普及と相まって、病院へのアクセスが向上し、医療の中心は次第に病院に移っていきました。

往診は、急性期の医療としては病院医療に劣ることが明確になりました。国民皆保険を悪用して乱診乱療を行う「神風医者」という批判もあり、臨時往診を主体とした「古典的在宅医療」は急速に廃れていったのです。

1970年代後半以降、CT、超音波、MRI、血管造影といった医療機器が普及していき、病院での急性期医療はさらに進歩します。一方で、救命はできたものの身体障害を残した高齢者に対するリハビリテーションや慢性期ケアがなおざりにされ、「寝たきり高齢者」が多く誕生しました。1973年に老人医療費が無料化されると、福祉施設の圧倒的な不足もあり、寝たきり高齢者の受け皿となる老人病院が数多く誕生して国民医療費の高騰を招きました。

入院医療の発展と共に、1951年に82.5%あった自宅での死亡率は、1960年に70.7%、1970年に56.6%へ減少しました。1975年には病院での死亡数が自宅での死亡数を上回りました。国民にとって、病院で死ぬことが当たり前の社会となり、死を身近に感じることが少なくなりました。

1981年からは、脳卒中に代わってがんが死因第1位になり、がん、心臓病、脳卒中の3大成人病が死因上位を占めるようになりました。このような中で、一部のがん患者や高齢障害者が地域での生活を望むようになりました。通院困難な患者のニーズに対応して計画的に往診する「定期往診」が一部医療機関で始まりました。しかし、当時は病院医療が全盛の時代であり、在宅医療の担い手であるべき開業医が高齢化していたため、このような「近代的在宅医療」が普及する状況にありませんでした。

平成から現在まで

平成に入り近代的在宅医療は飛躍の時を迎えます。1989年にゴールドプランが、1991年に訪問看護制度(訪問看護ステーション)が始まりました。1992年の医療法改正により、在宅医療が入院、外来に次ぐ第3の医療として位置づけられました。地域では、慢性疾患や重度な障害を持つ高齢者、緩和ケアを必要とする患者が増え始めました。このようなニーズに応えて、在宅医療を担う新しい世代の医師が1990年代から台頭し始めました。彼らは学会や研究会を設立して、経験を共有し、エビデンスを蓄積して、在宅医学の枠組みを形成していきました。

21世紀になって、在宅医療はさらに大きくクローズアップされました。2000年の介護保険制度施行に伴い、在宅医療は強く推し進められ、国民に認知されるところとなりました。2006年の在宅療養支援診療所制度の創設、2012年の「在宅医療あんしん2012」など在宅医療を推進するための施策が次々と出されました。

パラダイムシフト

我が国では2007年に高齢化率が21%を超え、治療モデルでは対応できない課題が地域にあふれ出しました。高齢障害者とがん患者が増加し、近代在宅医療のニーズが拡大しました。

20世紀は、治療や救命が優先される時代でした。21世紀に入り、多くの人が人生を全うし、老いと共に死を迎えられるようになりました。今、救命や延命をとことん追求する医療(治療モデル)から、その人らしさやQOLを保ちながら生きていくことを支援する医療(生活モデル)へのパラダイムシフトが起きています。

高齢化が進行する中で、安心して地域で生を全うするために、「地域包括ケア」システムと、それを支える在宅医療の重要性が再認識されています。


平原佐斗司: 在宅医療の歴史: 看取りの変化. Socinnov, 2, e1, 2016.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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