地域包括ケアの戦略: 合理性に基づく標準化

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (9)

小松俊平
医療法人鉄蕉会亀田総合病院経営企画室員, 社会福祉法人太陽会理事長補佐


現在の日本では、急性期から在宅にわたる医療・介護の諸分野で、様々なサービスが提供されています。関係する事業主体、事業所、職種も様々です。この多様さゆえに相互の連携は難しく、高齢者が最期まで安心して過ごせるシームレスな体制を地域で構築できているとは言えない状況です。地域包括ケアを、医療・介護を含めた生活全般の質を高めるための支援と捉えれば、その内容は、さらに多様で非定型になります。サービスの提供者側が相互に動きを予期することが難しくなり、連携は一層困難になります。このような中で、どのようにすれば、サービスの断片化を防ぎ、高齢者が最期まで安心して過ごせる体制を地域で構築していけるでしょうか。

国の出した答えの1つは、事業主体の統合です。社会保障制度改革国民会議報告書から引用します。

医療法人等の間の競合を避け、地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である。

このため、医療法人制度・社会福祉法人制度について、非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の推進に資するよう、例えばホールディングカンパニーの枠組みのような法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある。

これを受けた産業競争力会議医療・介護等分科会中間整理から引用します。

複数の医療法人及び社会福祉法人等を束ねて一体的に経営することを法制上可能とする非営利ホールディングカンパニー型法人(仮称)を創設する。

複数の法人が一体となることで、病床機能分化や医療・介護等の連携が容易になり、急性期医療から在宅介護・生活支援サービスに至る高齢者が必要とする一連のサービスを切れ目なく、体系的に行うことが可能となる。

国はさらに、統合した事業主体への統制を強める中央集権的アプローチを志向しているように見えます。報告書の言葉から論理をたどると、「都道府県の権限・役割の拡大」によって、今まで以上に権力性の強い「地域医療ビジョンや医療計画」を策定し、市町村にそれを「踏まえた内容」の「地域包括ケア計画」を策定させ、そこに「消費税増収分の活用」によってもたらされる資金を投入して、民間の事業主体にも従わせることで、「他国のように病院などが公的所有であれば体系的にでき」たはずの「医療・介護提供者間のネットワーク化等の医療・介護の一体改革」を実現するということになります。

しかし、重要なのは、利用者側から見てサービスがうまく組み合わされた形で提供されることです。事業主体の統合と、サービスがうまく組み合わされることは別の問題です。医療・介護サービスをすべて国が提供すれば、サービスがうまく組み合わされるというわけではありません。

しかも、地域包括ケアをめざすとすれば、ケアの目標が、患者の治癒から、利用者の生活の質の向上に広がります。生活ニーズは極めて多様です。それにうまく応えるには、提供者側が、それぞれの創意工夫でニーズへ接近していくように、競争環境を設定するしかありません。何がニーズを満足させるかを、マーケットではなく、国が決めるとすれば、サービスの進化は止まります。事業主体を統合し、統合した事業主体への統制を強める中央集権的アプローチは、ニーズへの接近を阻害します。

国は、国を頂点とするピラミッド型の階層構造によって、医療・介護サービスを統合しようとしています。しかし、利用者側から見てサービスがうまく組み合わされた形で提供されるために必要なのは、よりサービスの利用者側に近い部分での連携です。上意下達の階層構造は横方向の連携を阻害します。めざすべきはネットワーク構造による多元的アプローチです。

参考になる枠組みとしては、WTO設立協定のような多国間協定があります。締約国はそれぞれ独立で対等な主権国家ですが、協定によって自由貿易体制を構築しています。この主権国家を、医療・介護に関わるそれぞれの事業主体に置き換えて、高齢者が最期まで安心して過ごせる体制を地域で構築していくための協定を結ぶのです。協定の形を作るのが難しいのであれば、契約を複合させていく方法もあります。

必要なのは、サービスの提供者側の予期を収束させ、サービスの利用者側に近い部分での連携を促すような枠組みです。法令のような権力的枠組みは、一方的に覆るため、予期を確立できません。サービスの反応を素早くフィードバックすることもできません。協定や契約のような、非権力的枠組みを用いるべきです。

私たちは、そのような協定や契約が参照するための地域包括ケアの規格を作ろうとしています。規格は、地域包括ケアを検証、再現、共有可能な形で提示し、質の保障と向上をめざすものです。構造は検討中ですが、各サービス単位について静的に記述する部分よりも、各サービスの開始から終了に至る過程を動的に記述する部分が重要性を持つと思います。すべてを覆う完成された大体系はめざしません。手間が少なく成果が大きい所から形にしていきます。多様な解決を前提とした柔軟性、発展性ある枠組みをめざします。権力や権威に基づいて行為を定型化する枠組みが社会を覆うと、社会の進化が妨げられます。現実と乖離した脆弱な社会構造がもたらされ、それが崩壊して大被害を招くことがあります。私たちがめざすのは、合理性に基づく行為の標準化です。規格は、権力や権威ではなく、合理性のみに依拠します。


小松俊平: 地域包括ケアの戦略: 合理性に基づく標準化. Socinnov, 1, e9, 2015.

© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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