財政難の中での寄付の役割: 共感と資金を集める

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (8)

鵜尾雅隆
特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事


地域の問題を解決するには、一定量のお金が必要です。しかし財政難の中、行政の提供する資金だけに依存すると、どうしても社会課題の革新的な解決策が生まれにくいのです。これは世界共通の課題です。リスクのある新しいチャレンジだと、企業の投資や行政の支援が出にくい現実があります。だからこそ、民間非営利法人による革新的な課題解決の試みが求められるのです。そしてその活動を応援する民間の「共感に基づく」資金が必要です。

その資金をNPOなどが集める手段が「ファンドレイジング」です。これは、単なる資金集めではなく「共感に基づく組織マネジメントのスキル」だと考えてください。共感を軸に、組織も事業も財源もマネジメントしていくことで、採算の取りにくい事業を最大効率化させることができます。そしてより多くの人たちに社会課題の解決に参加していただくための方法でもあります。

ファンドレイジングの第1歩として大事なことは、自分たちのことをどう伝えるかです。まず、社会の人たちに対して、支援を必要とする人たちの抱える問題を説明し、共感してもらいます。そして共感してもらった人たちに対して、自分たちの団体の持っている解決策を説明して、納得してもらうことが大切です。この2つを繰り返すことがまず基本です。単に「支援をお願いする」ということではありません。

人間は、例えば「この子かわいそうだな」とか「素敵な夢だな」と、右脳で共感しないとどうしても寄付行動を起こしません。自分の消費満足だけを考えると、寄付行動は合理的ではないので、大きく心を揺さぶられることが必要です。その次に、「この団体は信用できる」「寄付したお金はちゃんと使われる」と左脳的な、論理的な部分で納得すれば、寄付しやすくなります。右脳から入って、左脳に落とすということなのです。

ファンドレイジングの可能性は、まだあります。行政の補助金は縛りが多く、使える範囲も限定的で広がりを持ちません。しかし、ファンドレイジングは、共感が生まれる過程で新しい人が巻き込まれ、解決策が生まれ、そこからまた新しい人や組織、サービスのつながりが生まれと、とても有機的でクリエイティブです。それ自体が、社会問題を解決に導くプロセスでもあるというわけです。

日本には寄付文化がないと言う人がいます。2005年の内閣府税制調査会資料によれば、2002年の個人の寄付は日本が2189億円、アメリカが22兆9920億円でした。確かに日本の寄付額はアメリカに比べれば少なく、特に個人の寄付額が非常に少ないです。ただ、私が思うに、日本には寄付文化がないのではなくて成功体験と習慣がないだけです。日本では「社会の一員として何か社会のために役立ちたい」と思っている人が66.7%もいます(2012年度内閣府社会意識に関する世論調査)。自分が亡くなる時に資産を社会に役立つことで残す遺産寄付に24.1%もの人が関心を持っています。その NPOがあることで例えば地域の高齢者医療や介護サービスが良くなるなど、日本に合う形での寄付の成功体験を得られるようになれば、確実に意識は変わります。


鵜尾雅隆: 財政難の中での寄付の役割: 共感と資金を集める. Socinnov, 1, e8, 2015.

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