首都圏の医療・介護の近未来

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (7)

高橋泰
国際医療福祉大学大学院教授



日本では、後期高齢者の一時的な急増と、若年人口の長期にわたる大幅な減少という世界史上未曾有の大変化が進行しつつあります。

2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になります。

日本で後期高齢者の増え方が最も激しいのは、神奈川県、埼玉県、千葉県などの東京のベッドタウンで、2010年から2025年にかけて、75歳以上の人口が倍増します。

さらに困ったことに、この地域は人口あたりの医師数が日本で最も少ないので、医療が極端な供給不足に陥ると予想されています。

それ以上に大変な状況になるのが介護です。

図1は、2010年における、後期高齢者1000人に対して老健、特養、療養病床、高齢者向け住宅などの要介護の高齢者に対応した施設の収容能力を、地域ごとのレベルで表しています。

Figure1

色が濃ければ濃いほど収容能力の少ない地域です。

2010年では、新宿・中野・杉並地区と太田・品川地区が70床以下、他の23区内が90床以下と、23区内の要介護の高齢者に対応した施設の収容能力が、際立って低くなっています。一方で、神奈川県、埼玉県、千葉県の東京湾周辺地域の収容能力は高くなっていることが分かります。

つまり、これらの東京湾周辺地域が、現在の東京で収容しきれない高齢者の多くを引き受けていることが想像されます。

図2は、今後、前記高齢者施設が新たに建設されないと仮定した場合の、2025年における、各地域の後期高齢者1000人あたりの収容能力を表しています。

Figure2

現在、収容能力の高い地域でも25年には後期高齢者数が急増し、収容能力が低下します。東京の介護は、そう遠くない将来、とてもとても厳しい状況になることが予想されるのです。

このような状況に対処する方向性は、基本的に次の2つにまとめられます。

方向性1: 後期高齢者の増加に応じて施設や人員を増強する

方向性2: 1人あたりの医療・介護資源消費量を減らす

高齢者を支えるべき若年人口の急速な減少と1000兆円を超える借金を抱える国家財政を考えると、これまでの延長上である方向性1は、遅かれ早かれ破綻する可能性が極めて高いのです。我々のめざすべき道は方向性2でしょう。

方向性2をもう少し具体的に述べると、1人の高齢者が、自立状態から死亡に至るまでの期間に使用する医療・介護資源消費量を、現在の3分の2程度に減らすことでしょう。この場合の重要な付帯条件は、「人生のトータル満足度を下げない」ということです。これを実現できたとすれば、現在の高齢者に対するインフラの水準で何とか対応できることになります。

首都圏の個人はどう対応できるのでしょうか。検討すべき第1の策は、「移住」でしょう。退職間もない夫婦が首都圏から地方都市に移住すると、お金に余裕が出来ます。お金があれば入院も施設入所も容易にできます。受け入れる側の地域も、移住者にお金を落としてもらえます。首都圏に残った人から見れば、1人あたりの病院や施設の取り分が増えることになります。送り出す自治体にとっても、たとえ転出者の移住先での医療・介護に対する市町村の負担増を肩代わりしたとしても、首都圏に残っている場合と比べれば、出費が少なくなります。

首都圏、名古屋周辺は現状でも医療・介護資源が少ない上に、今後、急速に高齢者が増加します。大都市部から、医療・介護に余裕のある地方に「移住」するというのは、2025年問題の有力な解決策と言えます。

移住に続く第2の策としては、高齢者自身が周囲からの援助を期待しない「自立的老い」です。自らの身体機能を低下させる可能性の高い介助を断り、福祉器具や住宅改築などを積極的に利用し、進んでリハビリを行い、自分で何とかやれる期間を長くする努力をして「自立的老い」をめざすのです。社会も高齢者の自立期間を伸ばす努力を、徹底的に援助することが必要です。

第3の策として、自分の死に方を人任せにせず、自身の望む死に方を決めることも重要です。家族や医師などの周囲の人も本人の意思を尊重して、望むような終末期を実現してあげることが求められます。

この3つを実践する人が増えれば、恐らく、現在、後期高齢者に提供されている医療・介護量の3分の1程度は減らすことができ、現在のインフラで何とか急速な高齢化の波を乗り切ることができます。さらに個人の老い方や死に方に対する満足度も上がるのではないのでしょうか。


高橋泰: 首都圏の医療・介護の近未来. Socinnov, 1, e7, 2015.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

pdf_bt