地域持続の雇用戦略: 3つの転換で交差点型社会を

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (6)

宮本太郎
中央大学法学部教授



日本創成会議が2014年3月に発表したレポートは、2040年には日本の自治体のうち半数近い896の自治体が消滅可能性を強めると予測して衝撃を呼びました。消滅可能性が高いと判断される基準は、その自治体における20歳から39歳までの女性の減少率が2010年からの30年間で5割を超えることです。

今、多くの地方では現役世代の雇用機会が減少しています。特に女性の雇用機会が限定され、かといって専業主婦になろうとしても、もはや扶養能力のある男性は少なく、地域を去って東京に出ていく女性が増えています。ところが東京でも安定した仕事は見つからず、働きながら子どもを生み育てることは地方以上に困難です。こうして、日本全体で貧困が広がり人口減少が加速しています。

地方で雇用を再生させることは可能なのでしょうか。答えはイエスです。しかし、地方における雇用の再生は、従来のやり方とは根本的に異なる方法で実現していかなければなりません。3つの転換が必要です。

第1に、雇用の場の転換です。これまでは地方に特定の産業がない場合は、雇用は公共事業によって確保されてきました。ところが、公共事業の予算が削減される中、2002年からの10年間で、建設業で働く人は158万人減少しました。これに対して急速に増えているのは、医療、介護、福祉の雇用です。この分野では、同じ期間に、女性を中心に219万人雇用が増大しています。

まずこの分野での処遇を安定させつつ、加えて、地元の農林漁業の生産物を地元で加工・販売するいわゆる第6次産業や、太陽光発電・風力発電などの再生可能エネルギー分野、さらには体験型ツーリズムなどでの雇用を追求していくことが重要です。高齢者が多いことや、自然が豊かであることが、雇用機会を広げるチャンスとなるということを認識し、その地方ならではの可能性を追求していくべきです。

第2に、全員参加型の雇用への転換です。これまでは、男性稼ぎ主が仕事に就き、家族を養いつつ、税金や社会保険料を払って就労困難な高齢者や障害者を支える、という形が一般的でした。しかし、支えられる側が数の上で増大し、支える側が経済的に弱っていく中では、こうした2分法を維持することは困難です。また、支えられる側と決めつけられてしまった人たちがほんとうに幸福かということも考えるべきでしょう。

これからは、老若男女が皆で地域を支える形が必要なのです。そのためにまず、働くことに困難を感じている人たちを支援する施策が不可欠です。家族のケアのために働くことが困難な人には保育や介護のサービスを、また知識や技能の不足で就労できない人には成人教育を提供することです。また、こうしたサービスが新たな雇用の場になります。

その上で、誰でも働くことができる職場づくりが求められます。今いくつかの企業では、専門性の高い業務から、誰にでもできる単純な作業を切り出して、1つの業務としてパッケージ化するという取り組みが始まっています。こうして中核的業務の効率性を高めつつ、高齢であったり障害があったりしてもこなせる仕事を作るのです。労働時間の短縮や柔軟化も、より多くの人たちが力を発揮する機会づくりになります。

第3に、雇用をめぐるライフサイクルの転換です。これまでの日本では、まず教育を受け、そして働きだし、女性は途中で仕事を辞めて家族のケアに関わり、男性は失業することなく勤めあげることができれば退職して年金生活、というパターンが一般的でした。これはいわば一方通行で後戻りできないライフサイクルでした。

日本人にとって当たり前になってしまっているライフサイクルですが、2つの点で大いに問題があります。まず、これからは地域社会を強くするためにも、1人ひとりに適材適所で存分に力を発揮してもらうことが大切なのに、やり直しが効かないこの仕組みでは、自分により合った仕事に就くためチャレンジすることがとても難しいのです。また、このライフサイクルは時間と共に、女性は家庭に、高齢者は年金生活に振り分けられ、あるいは失業によって以前と同じように活躍することが困難になるなど、全員参加を困難にする仕組みでもあります。

これからは、仕事に就いてから教育を受け直したり、退職してから新しい仕事を始めたりするなど、後戻りの効く仕組みが必要です。あるいは、教育や家族のケアと就労に同時に取り組むことを可能にすることも大事です。すなわち、一方通行型社会から交差点型社会への転換です。

この交差点型社会の形を示したのがです。まず真ん中の雇用の島を、地方ならではの条件を活かして構築していくと共に、雇用と教育、家族、失業、加齢・体と心の弱まりを双方向的につないでいく政策や制度の橋を架けることが求められます。雇用の島を作り出し、4つの橋を構築していくのは、国、自治体、民間事業者の共同作業です。それぞれがどのような役割を果たすことができるかは、にまとめてあります。IやIIIの橋を構成するのは地域のニーズに密着した専門学校や大学、IIの橋を構成するものとして就学前教育や子どもたちの放課後の質を高める場づくりが挙げられます。さらに、IVの橋を成り立たせるものとして、高齢者だけではなく、体と心が弱まってしまったより多くの人々をアクティブにしていく真に包括的な地域ケアシステムが考えられます。

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遠い理想のように見えるでしょうか。実は決してそうではありません。こうした持続可能な地域づくりは私たちの周りで既に始まっています。大事なことは、ばらばらに行われがちな取り組みをつなげ連携させていくビジョンなのです。


宮本太郎: 地域持続の雇用戦略: 3つの転換で交差点型社会を. Socinnov, 1, e6, 2015.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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