介護保険制度の設計思想

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (4)

和田勝
国際医療福祉大学大学院特任教授


はじめに

介護保険制度は、2000年4月にスタートし、15年目を迎えました。国民の老後生活に対する最大の不安要因である介護ニーズを充足し、地域社会の安定・安心感を高めました。

この間、要介護認定者数は全国で2000年の218万人から2013年4月の564万人へ、1年間に1度でも介護サービスを利用した人の数(年間実受給者数)は、2001年度の287万人から2013年度の566万人へと大幅に増加しました。

これに伴って、介護サービス費も2000年度の3.3兆円から毎年6~7%増大し、2014年度には10兆円に達すると推計されています。この間、在宅サービスの伸びが大きく、かつて入所サービス費が6割を占めていたのが、今日では在宅サービス系が6割以上を占めるようになっています。

今後、高齢化の進行に伴い、介護サービス費は、2025年には19兆円~23兆円に達すると推計されています。雇用者数も多いので、我が国の成長産業の一翼を担うと期待されています。しかし、今後急速にニーズが増大する大都市圏におけるサービス提供体制、人材の確保、従事者の処遇改善、保険料を含めた財源確保など、大きな課題も残されています。

介護保険制度創設の背景

財源不足

要介護者が増加する中で、家族の介護負担は深刻な社会不安となっていました。1994年の新ゴールドプラン策定により介護サービス整備目標が大幅に引き上げられましたが、バブル経済崩壊後、介護サービスの財源不足は深刻で、新たな財源確保策は喫緊の課題となっていました。同年細川護煕首相が打ち出した国民福祉税構想のあえない挫折は、新たな財源確保策の必要性を突き付けました。

従前の制度

当時、介護サービスは、公費による老人福祉と医療保険という2つの異なる制度により提供されていました。1993年当時、それぞれ1兆円、合計2兆円の規模でした。この2つには大きな差異があり、不公平で利用しにくいものでした。福祉は、税を財源とし、行政処分である措置制度でサービス利用が決定され、利用時の一部負担も所得に応じて決まる応能負担でした。他方、医療は、保険料が基本の財源で、利用者自身がサービス提供者を選択し、サービス利用に応じた応益負担となっていました。

福祉の措置制度では予算の範囲内でしかサービスを提供できませんし、利用者に選択権がないため特養の設置者は役所の方に目が向きがちで、ニーズに応えていない面がありました。他方、医療には社会的入院の増加、薬剤多用など不適切な実態がありました。

また、老人保健に対する拠出金をめぐって、健康保険組合側と国保側との間に厳しい対立があり、制度が行き詰まっていました。この解決のためにも老人保健法に代わる新制度を作りたいという思惑がありました。

こうしたことから、介護保険制度創設は、社会保障構造改革の第1弾であり、地方制度改革の試金石として位置づけられました。自社さ政権時代であったから可能であったので、経済財政諮問会議が主導した小泉改革時代ではなし得なかったと思います。

介護保険制度の構想

理念

重視したのは、単なる財源対策ではなく介護に関する新たな理念を打ち出すことでした。それが、「個人の尊厳」の尊重であり、それに由来する「自立支援」です。当然、利用者自身による「選択」と事業者との「契約」によりサービス利用を自己決定することになります。

税収不足の下で、社会保険方式と税財源の措置制度を統合するのですから、「社会保険方式」を選択することになります。保険料と公費をそれぞれ5割にすれば、既に予算確保してある福祉の国費を2倍にして活用できます。

保険制度の下では、サービス利用は被保険者の権利ですから、「選択・契約」の仕組みとなり、その結果、市場機能が効いて事業者のサービス提供拡大や質の改善の意欲を刺激します。介護ニーズの拡大は確実で、サービス利用があれば保険から事業者に金が支払われます。予算範囲内でしかサービスを提供できない措置制度に比べて、サービス提供量が増加します。急速に拡大するニーズに対応するため、在宅サービス分野では営利法人・協同組合・NPOなどの民間事業者の参入を認めました。

高齢者の負担

従前の制度では、現役世代層の負担に比べ、高齢者層の負担が軽かったのです。医療保険(老人保健)では被扶養高齢者は保険料負担がなく、また、一部負担も定額制で負担が軽くなっていました。他方、老人福祉の利用者負担は所得に応じた応能負担でしたから、低所得層は特別養護老人ホームを、また、サラリーマン家庭の高齢者は療養病床を利用する実態が見られました。世代間の負担の公平の観点から、高齢者にも保険料負担をさせ、また、サービス利用時には定率の1割を負担させることとしました。

要支援

予防重視の観点から、「保険事故」に要介護状態の他に「要支援状態」を加えました。予防給付の制度化は、日本の健康保険にもドイツなどの介護保険にもない画期的なことでした。

保険者

保険者は、市町村およびその広域連合としました。地方自治の本旨からすれば、当然市町村が担うべき役割です。円滑に保険運営ができるよう、国、都道府県、医療保険者、年金保険者による重層的支援を組み入れました。

財源

財源は、「保険料+公費(税負担)+利用者負担」で、第1号被保険者(65歳以上の市町村住民)の保険料は、その市町村の介護サービス費の水準を反映させることにしました。それ以外の費用は全国の第2号被保険者(40歳以上65歳未満の医療保険加入者)の保険料と公費で賄われるので、高齢化が進み給付費の高い市町村ほど負担が軽減されます。

ケアマネジメント

ケアマネジメントを導入したのは国際的に見ても画期的なことでした。要介護者の心身の状況に応じて適切で効率的な介護サービスを選択できるようにするため、ケアマネジャー(介護支援専門員)が、居宅サービス事業者・介護保険施設との連絡調整、ケアプラン(介護支援計画)の策定、介護サービス利用状況の把握、サービス利用の評価などを行い、支援します。役所や病院が判断するよりも良いと考えたからです。

現物給付

給付は、現物給付とし、家族への現金給付は制度化しないこととしました。足りないのは「カネ」ではなく「良いサービス」だからです。現物給付化することにより、事業者によるサービス提供基盤整備が一層促進されると考えました。

要介護認定

要介護度を全国統一基準で認定し、要介護・要支援の程度に応じた給付限度額を設定しました。軽度の者も給付対象としており、また、給付限度額の水準は国際的に見て高いと言えます。


和田勝: 介護保険制度の設計思想. Socinnov, 1, e4, 2015.

© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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