人口の変化と社会保障

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (3)

小松秀樹
亀田総合病院地域医療学講座プログラム・ディレクター, 医療法人鉄蕉会亀田総合病院副院長, 社会福祉法人太陽会顧問


少子化

今後の日本を考える上で、最も重要な統計が、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口です。出生3条件、死亡3条件、すなわち3×3、9種類の条件で、100年後の2110年までの推計値が公表されています。

日本の最大の問題は、出生数が少ないことです。このため、人口が減少します。100年後、多くて6000万人、少ないと3000万人、出生中位・死亡中位推計で4300万人にまで減少します。出生数が減少するので、高齢化率が上昇します。高齢化率とは、65歳以上の高齢者の全人口に占める割合です。日本は2007年に高齢化率が21%を超え、世界で最初に超高齢社会に突入しました。現在も高齢化が猛スピードで進んでいます。

人口が減少すると、人口密度が小さくなり、ゆったり生活できるようになる、良いことではないかと思われるかもしれません。現実には、人口が減少すると、社会保障制度の維持が困難になります。

社会保障の支え手は現役世代

日本の年金制度は、高齢者の年金を、主として20歳から64歳までの現役世代が支払う賦課方式です。今後、年金受給者に比べて現役世代が少なくなるので、維持が困難になります。

医療も現役世代が支えています。2010年度、後期高齢者医療制度の総医療費は患者負担を含めて12兆7000億円でした。このうち、公費が5兆8000億円、組合健保など被用者保険からの拠出金が5兆円で、合計すると10兆8000億円、85%が現役世代の税金と保険料で賄われています。2013年度の日本の文教および科学振興予算5兆4000億円と比較しても、後期高齢者医療制度の大きさが分かります。

2013年度の日本の社会保障給付費は、予算ベースで110兆6000億円。年金が53兆5000億円、医療が36兆円です。財源は、保険料が62兆2000億円、国税が29兆7000億円、地方税が11兆2000億円、残りが資産収入です。資産収入を除いてほとんどが、現役世代の負担です(図1)。

給付は減額される

今後、高齢者が増加し、現役世代が減少します。2010年、現役世代人口は7560万人、65歳以上の人口は2850万人でした。出生中位・死亡中位推計では、2042年に65歳以上の人口がピークに達し、3880万人になります。一方で現役世代人口は5210万人まで減少します。2010年には65歳以上の高齢者1人を2.57人で支えていましたが、2042年には1.34人で支えることになります。

働き手1人あたりの負担が今と同じなら、給付は2010年の52%となります。ただし、国の一般会計の歳入の半分は借金、支出の4分の1が借金返済です(図2)。借金は毎年毎年増加しています。このままではハイパーインフレになりかねず、いつまでも借金を増やし続けることはできません。国の借金が帳消しになって新たな借金をできなくなった場合、借金返済以外の支出も3分の2まで減ります。単純に計算すると、給付は52%の3分の2、35%程度まで減ってしまいます。実は、特別会計にも借金があります。2013年度の一般会計の借金返済にあてられている金額は22兆円ですが、一般会計と特別会計を合計した223兆円で見ると、その38%にあたる84兆円が借金返済に充てられています(図3)。

しかも、高齢者の中での年齢構成も変化します。2010年には、65歳から74歳までの前期高齢者人口が75歳以上の後期高齢者人口より多かったのですが、2017年に逆転して、後期高齢者の方が多くなります。2057年には後期高齢者人口が前期高齢者人口の2倍を超えます。この年、65歳以上の高齢者1人を1.20人で支えることになります。2007年の千葉県の前期高齢者の要介護認定者の出現率は3.9%ですが、後期高齢者では28.1%です。要介護者の世話にはお金と人手が必要です。

現状のまま抜本的対策を講じなければ、日本の社会保障は維持できません。社会保障だけに頼っている貧しい高齢者は、生きていくのが困難になります。

とりうる針路は2つ

どうしても医療・福祉を見直さざるを得ません。例えば、度を越した多剤投与は医療費を押し上げるだけでなく、健康被害をもたらしかねないので、厳しく制限すべきです。生活保護についても細かく見直すべきです。

その上で2つの方向があります。

1つは北欧型です。社会保障制度を維持するために、税金と社会保険料の負担を限界まで増やします。国民負担率を北欧よりさらに上げます。ただし、現在の日本で政治的合意を得られるとは思いません。

2つ目の方向は、個人負担の拡大です。社会保障を維持するために、混合診療を導入して、費用対効果の悪い医療は個人負担にします。介護保険についても、保険外サービスを参入しやすいようにする必要があります。高齢者の持っている資産を、生きている間に使い切ってもらうための保険商品を開発する必要があります。あらゆる手段で、介護従事者の収入を高めないと、人手を確保できず、介護サービスを提供できません。

それでも、将来の現役世代を増やし、その収入を増やさない限り、日本で社会保障制度を維持するのは困難です。若者の教育、就労支援、子育て支援を手厚くして、若者の収入を増やし、出生率を高める必要があります。

出生率が向上しなければ、大規模な移民、それも高学歴層の移民を受け入れざるを得ません。起業能力のある活発な人材がほしいところです。収入の少ない単純労働者では、社会保障を支えられないし、逆に将来の社会保障負担を増やすだけです。移民してもらうためには、移民先として、現在の日本に魅力のあることが前提となります。


小松秀樹: 人口の変化と社会保障. Socinnov, 1, e3, 2015.

© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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