あなたは人生の最期をどう生きたいですか: もしもを考え、話し合い、理解し合うためのアドバンス・ケア・プランニング

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (14)

蔵本浩一
医療法人鉄蕉会亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、在宅医療部医師


日本国憲法第13条には、個人の尊重、幸福追求に関して以下のように書かれています。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

どんなに歳をとっても、病気やケガで後遺症を抱えたとしても、命が尽きる最期の一瞬まで、私たちは個人として尊重される、ということが規定されているのです。

では意思を尊重されるべき個人が意思表示をしない、もしくはできない場合はどうなるか。例えばあなたが事故か病気で意識を失って、意思表示できないような場合はどうなるか。その時には、恐らくあなたのことを最もよく知る人物、すなわち代理人が、あなたに代わって意思決定することになります。

あなたにとっての意思決定の代理人を具体的に思い浮かべてみてください。それは父親、母親、兄弟姉妹、子どもなど家族の中の誰かですか。もしくは家族以外の誰かですか。

今、あなたが思い浮かべたその人は、今現在、あなたのことをどのくらい理解していますか。

今、あなたにもしものことがあった時、その人はあなたの意思決定の代理人という、大事な役割を果たしてくれそうですか。

8割が話し合っていない

人の死亡率は100%であり、ほとんどの人が遅かれ早かれ経験するもの、それが終末期であり終末期医療です。

どんな最期を迎えたいのか、延命医療はどうするのか。なるべくなら考えたくない、先延ばしにしたい話題である反面、実際にその時が来たら考えられない、間に合わない場合も少なくありません。

数年前に千葉県鴨川市と東京都町田市で、延命医療や終末期医療に関するアンケート調査が行われました。その結果、「(自分自身の)延命治療についての意向を家族で1度も話し合ったことがない」と答えたのが一般人の半数以上で、「終末期医療に関する(自分の)希望を、代理決定者となる人が理解している」と答えられた人は、医療者ですら2割、一般人では1割もいませんでした()。

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実に80%以上の人が終末期医療や延命医療に関する話し合いの場を持てていないのが現状です。

アドバンス・ケア・プランニング

最近、様々なメディアにおいてエンディングノートや終活といった終末期に関する話題が取り上げられるようになりました。

医療関係者の間でも、終末期医療をテーマにした講演会やカンファレンスが、様々な場で開催されるようになっています。

これに関連して「アドバンス・ケア・プランニング」という言葉を耳にするようになりました。

アドバンス・ケア・プランニングは、「将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養について患者・家族とあらかじめ話し合うプロセス」と定義されています[1]。このプロセスには、患者や家族の希望や価値観から、事前指示(書)や心肺蘇生法を行わないこと(DNAR)まで、幅広い内容が含まれています。

このアドバンス・ケア・プランニングという言葉を聞いてピンとくる人は、医療関係者においてもまだ少ないのが日本の現状です。

起きている現実と課題

日本では終末期医療や延命医療について、考えていない、話せていない人が少なくないことは先の調査からも明らかですが、一方で、終末期医療を必要とする高齢者が増えることは確実です。その1人ひとりの意思を最期まで尊重するためには、まず個人の意思を明らかにすることが重要です。しかし実はそれだけでは足りません。代理人となりうる人に意思を伝える場、互いの意思や価値観を理解するための対話の場を持つことも必要になります。そしてこの対話は、1度きりではなく、継続して行っていく必要があります。なぜなら、私たちの意思や価値観は、いつでも変わる可能性があるからです。アドバンス・ケア・プランニングが、時間軸を持ったプロセスであるゆえんも、ここにあります。

いつ、誰が、考える

「縁起でもない。」

終末期医療や延命医療を考えたり話したりできない理由の1つはこれなのかもしれません。健康な若者であれば、もしもの時のことを自分のこととして考えられる人は、そう多くはないでしょう。しかしながら、若者であっても、意思決定の代理人になる可能性は少なからずあります。実際、自分の終末期について本人がしっかりと意思を表明している場合でも、代理決定者となる配偶者や子どもがそれをどう受け止めるかによって、最終的な決定は変わる可能性があります。つまり、終末期医療や延命医療は高齢者に限った問題ではないのです。

亀田総合病院では、2013年、院内外の有志からなるアドバンス・ケア・プランニング啓発プロジェクトを立ち上げました。

アドバンス・ケア・プランニングを理解する、考える、行動することを目的として、医療関係者、地域の高齢者はもちろん、大学生など、これからの日本を支える若者に対しても、ワークショップなど対話の場を設けています。

ワークショップの参加者からは「自分が決めたことは尊重してほしい」「でも、大切な人が決めたことすべてを尊重できるかは分からない」「元気な今のうちから、話し合っておこうと思う」などの声が聞かれます。

私たちが活動する上で大切にしていることは、価値観の多様性に気づいてもらうこと、そして私たちを含め参加者各々がそれを尊重するような場を提供することです。

日本には「考えられない」「今は決めたくない」という価値観を持っている人も一定数います。そのような人に対して、無理矢理考えることや準備することそして決定を迫るべきではない、と私たちは考えています。

決められない、考えたくない人に対しても、その心情を察したり慮ったりするような、日本人らしい細やかな心遣いを持って取り組みたいと思っています。多様な価値観を、各々が認め合い、もしもの時には助け合えるような準備をすること、地域の人々が縁起でもない話を普通の(大切な)話として、話し合えるような機会を作り、最期だけでなく今をより大切に生きるきっかけを作りたい、私たちはそう考えています。

急速に高齢化が進む我が国において、終末期医療やアドバンス・ケア・プランニングに関する取り組みは、今後ますます重要性を増していきます。

多くの人が、今をより大切にしながら、最期まで精一杯生きられるように、私たちはこれからもこの活動を続けていきます。

文献
1. 大関令奈: アドバンス・ケア・プランニングとは何か?. 緩和ケア, 22, 403-406, 2012.


蔵本浩一: あなたは人生の最期をどう生きたいですか: もしもを考え、話し合い、理解し合うためのアドバンス・ケア・プランニング. Socinnov, 1, e14, 2015.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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