急性期病院からの退院: あなたの望みがかなうとは限らない

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (12)

小野沢滋
北里大学病院トータルサポートセンター長



急性期病院からの退院について、患者の希望がどの程度かなえられるのか、現状をご説明します。

大きな病気になって入院するというのは、多くの人があまり考えたくないことでしょうが、ほとんどの人が人生の最期が近づくと必ず遭遇する事態です。

果たして、病院はあなたを元通りにしてくれるのでしょうか。残念ながら、高齢であればあるほど、元通りの状態になるのは難しいでしょう。

日本人の中には、何が何でも長期間生きていたいと考える人がいます。一方で、「意識のないまま、人工呼吸器や何本もの点滴チューブにつながれるようなことはいやだ、人生の最期は自分の家で穏やかに死んでいきたい」と考えている人も大勢います。あなたが後者の場合、果たしてその望みはかなうのでしょうか。

胃ろうが着く可能性

急性期病院から、要介護状態で退院する場合、どこに退院するのかを見てみます。

図1は亀田総合病院から退院した65歳以上の患者の要介護度を調査したものです。約30%が要支援以上の介護度でした。ただ、このうちの約半数はもともと要介護状態であると家族の申告があった人ですので、入院直前まで元気だった人のうち、18%弱が1人では生活できない状態で退院することになります。実は要介護者の多くは、急性期病院への入院をきっかけに要介護状態に陥ります。

Figure1

要介護になった時に、その後の生活に大きな影響を与える処置がなされることがあります。例えば、最近話題になるようになった胃ろうです。胃ろうは生活の質を高めるのに有用な場合がありますが、そうでないこともしばしばです。胃ろうのきっかけとなる病気は、急性期病院で治療されます。胃ろうに至るには、いくつかのパターンがあり、最も多いのは脳血管障害です。胃ろうを造設するかどうか決める段階では、あなたに判断能力はほとんどなく、家族と医師があなたの運命を決めることになります。次のようなやりとりになることでしょう。

「お父様は、今は口から食べられない状態です。このままでは命が危ないので人工的な栄養を考えなくてはなりません。」
「栄養を保てば、また口から食べられるようになるのでしょうか。」
「それは何とも言えません。食べられるようになる方もいますし、そうでない場合も少なくありません。」
「分かりました。では、最善を尽くしてください。」
「分かりました。では、胃ろうをお勧めします。」

急性期病院の医師にとって、最善を尽くすとは、すなわち命を延ばすことに他なりません。本人や家族が満足できる穏やかな終末期より、延命のためにギリギリの闘いを続けることを勧めがちです。残念なことですが、急性期病院の医師の多くは、要介護者が退院後どのような人生を送ることになるのか、入院中の決定がその後の人生にどのような影響を与えることになるのか、ほとんど知りません。急性期医療そのものに大きな価値を見出しており、しばしば患者の終末期が軽視されがちです。大学病院のように、命を延ばすことを中心に診療を行っている場が、若い医師の教育の中心であることが影響しています。

自宅へ帰れない

胃ろうが造設された後のあなたの人生はどのようになるのでしょう。図2は、亀田総合病院で胃ろうを造設した患者の退院先です。自宅に帰っているのは24%。リハビリ病院や一般病院に転院した場合には、そこから自宅に帰ることもあり得ますが、10%程度上積みしても、約3分の1が自宅へ帰れるに過ぎません。胃ろうがあるだけで生活の場を限定されます。療養病床や介護施設に移ると、ほとんどの人は、2度と自宅に帰ることなく数年後に施設で最期を迎えることになります。

vol1e12figure2

治療のやめ時を逸する

悪性腫瘍の場合はどうでしょうか。医師が「もう治療が効かないな、根治は無理だな」と思ってから、あなたにそのことを告げるタイミングは、その担当の医師によって大きな違いがあります。また、あなたの聞く態度によっても医師の言動は変化していきます。あなたが都会に住んでいると、突然、「もう治療がないので私たちの病院に入院し続けるのは制度上無理です。ホスピスを探してください」などと言われてしまうことも、まれではありません。

図3に示したように、国民の多くは、がんを診てくれていた病院で診療を受け、自宅で在宅医療を利用しながら過ごして、必要があればホスピスに入院したいと考えていますが、これは、少なくとも都市部や首都圏のベッドタウンでは、最も運の良い人に例外的に起きるお伽話に過ぎません。図4は、北里大学病院での末期がん患者の退院支援の結果です。ホスピスに転院するのはわずか1.6%程度に過ぎません。国のデータを見ても、ホスピスで亡くなる方は10%未満で、国民の期待と大きな差があることが分かります。

Figure3Figure4

いくら自分の意思を通したいと思っていても、医師が告げてくれなければ、あなたが自分の病状が既に取り返しのつかない状況にあることすら知ることができないのです。その結果、混乱したあなたは医師の勧めるまま治療を続け、不本意な最期を迎えることになります。

他人事ではなく議論を

あなたの人生は急性期病院への入院で大きく変化するのですが、これまで示したように、その変化は必ずしもあなたの望むようにはならないのです。というよりも、ほとんど望むようにはならないと言った方が正確でしょう。

多死の時代を迎えた今こそ、死をどう考えて、どう迎えるのか、議論が必要だと思います。


小野沢滋: 急性期病院からの退院: あなたの望みがかなうとは限らない. Socinnov, 1, e12, 2015.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

pdf_bt