急性期病院からの退院: 成否を決める3要素

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (11)

藤田浩二
医療法人鉄蕉会亀田総合病院感染症科医師



急性期病院からの退院について、千葉県の亀田総合病院を例に、急性期病院が何を考えて行動しているか説明します。

亀田総合病院は急性期医療を担っています。3次救急病院として、24時間365日、救急患者を受け入れています。急性期医療とは、病気の発症から、進行を止める、あるいは、回復が見込めるめどをつけるまでの医療です。完全な回復や、社会復帰までのすべての過程を担当しているわけではありません。当然、要介護者を預かる施設ではありませんし、看取りのための施設でもありません。

千葉県では、埼玉県、神奈川県と共に全国屈指のスピードで高齢化が進行しつつあります。これに伴い、医療・介護需要が増加しています。しかも、千葉県は埼玉県、茨城県と並んで、日本で最も医療サービスの提供が不足している地域です。高齢化によって、医療サービスの提供不足がさらに深刻になりつつあります。亀田総合病院では、医療が荒廃している近隣の2次医療圏からの患者の流入があり、病床の足りない状況が続いています。

現在、平均在院日数は12日前後を推移しています。平均在院日数が1日延びると、10%近い患者が入院できなくなります。

急性期病院では、様々な専門家が活動し、各種の高額医療機器が稼働しています。このため、莫大な資金を必要としています。急性期病院は、地域の住民、県民、国民の共有財産です。救える命を1人でも多く救うためには早期の退院がどうしても必要なのです。

ただし、早期退院は次の患者のためであって、退院する患者のためではありません。身体障害の残った患者の早期退院は容易なことではありません。日常生活に不自由が残ると、退院して自宅に受け入れるのに、家族は不安になります。療養病床への転院には時間がかかります。介護施設には入所を待っている人が大勢います。介護の苦労から解放された家族が、退院を先延ばしにしたがるのはよく理解できます。介護施設より病院の方が、経済負担が少ないことも、早期退院を難しくします。

早期退院できるかどうかを左右する3つの要素があります。
(1) 治療期間
(2) 日常生活動作
(3) 退院後の受け入れ側の環境・マンパワーの整備

誤嚥性肺炎で入院した高齢男性を例に見ていきましょう。

第1の要素、治療期間は主治医の視点です。

85歳男性、脳梗塞後の後遺症のため右半身が不自由です。嚥下力が落ちていて、むせやすい状態にあり肺炎を繰り返しています。抗菌薬を1週間あるいは2週間投与するのが標準的治療です。点滴治療を開始して数日すると、熱が下がり始め酸素投与は不要になります。残りの約10日間はダメ押し的な治療です。急性期を脱すれば、主治医は早期に退院させようと考えます。後方病院への転院を考慮したり、速やかに退院させてその後の治療を外来で行ったり、あるいは在宅診療を導入して継続治療することもあります。退院調整は主治医の指示で開始されます。

2番目の要素、日常生活動作はリハビリスタッフの視点です。

肺炎治療が軌道に乗っていても、日常生活動作が不自由だと、元の生活環境にすぐに戻れるとは限りません。歩行は大丈夫か、飲食や排泄がきちんとできるかなどが問題です。リハビリスタッフから見える問題点は、時に主治医には見えておらず、2次的なトラブルがよく起きます。事実、このケースでは、肺炎の経過が良好だったため自宅に退院させましたが、自宅で肺炎が再発しました。しかも、歩行が不自由だったため、転倒し大腿骨を骨折して再入院となりました。

3番目の要素、退院後の受け入れ側の環境・マンパワーの整備はソーシャルワーカーの視点です。

高齢者では、治療やリハビリが終わったとしても元の生活環境に戻れない場合があります。再入院になった男性は寝たきりになり、嚥下力もさらに低下し、介護にますます手がかかる状況となりました。家族も自宅の改修工事やさらなるサービスの導入が進まなければ、自分たちでは面倒を見ることができないと訴えます。また、他の施設に移る場合には、その時点での日常生活動作に見合う施設や病院に空きがあるかどうかが問題になります。自宅退院が難しいということで、主治医が慌ててソーシャルワーカーに連絡し転院先を探しますが、簡単には見つかりません。結果的に入院が長引きます。早期からソーシャルワーカーと情報がシェアされていれば転院はスムーズにいきますが、主治医にはこの問題が見えておらず、慌ててソーシャルワーカーに丸投げするため調整が遅れます。

以上が、退院に関する病院側の3つの要素です。それぞれの要素で中心的役割を担う職種が異なります。ちなみに、要介護者の早期退院策の1つとして在宅診療を上手に導入するという方法があります。北里大学病院トータルサポートセンター長(前亀田総合病院在宅医療部長)の小野沢滋医師のデータによると、在宅医療部が介入した場合には、他院・他施設に転院する場合に比べて有意に急性期病院の入院期間が短縮されます()。結果として3次救急病院の貴重な医療資源を節約できます。

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以上は、病院側からの議論です。身体障害の残った患者が実際にどのような生活を送ることになるのか、退院時の選択がその後の生活にどのような影響を与えるのかについては次で扱います。


藤田浩二: 急性期病院からの退院: 成否を決める3要素. Socinnov, 1, e11, 2015.
© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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