地域包括ケアと情報ネットワーク

Series: 地域包括ケアの課題と未来 (10)

亀田信介
医療法人鉄蕉会亀田総合病院院長, 社会福祉法人太陽会理事長


情報通信技術の進歩により、医療・介護の現場においても電子カルテ導入をはじめとした情報化が進められてきました。歴史的には1999年に診療録の電子保存が法律上認められ、情報の共有化やデータの2次利用による医療の効率化と質の向上が期待されましたが、実際は思ったような成果を得られませんでした。

なぜ十分な成果を得られなかったのか

原因としては、医療従事者が情報の共有や公開に消極的であったこと、事業所ごとに異なる情報システムの情報を実用に耐えられる簡便性やスピードをもって伝達することが技術的に困難であったこと、民間で活用可能な国民共通IDが存在しなかったことが挙げられます。加えて、ソフト開発業者が、他社のシステムに乗り換えられないようにするために、情報の囲い込みに熱心で、他業者のソフトとの間で、情報のやり取りをしにくくしたことも大きかったと思います。

急激な長寿化による医療・介護資源の不足を克服するためには、情報通信技術を基盤としたネットワークの構築が喫緊の課題です。最先端技術を活用したハードとソフトの開発は継続して進めなければなりませんが、医療・介護サービスの向上を阻む最大の問題は、医療・介護情報の合理的かつ公正な取扱いの基本ルールが構築されていないことにあります。

地域包括ケア

近年、地域包括ケアという言葉が頻繁に使われていますが、具体的なモデルは存在しません。2013年8月に発表された社会保障制度改革国民会議報告書には、「地域での包括的なケアシステムを構築して、医療から介護までの提供体制間のネットワークを構築することにより、利用者・患者のQOLの向上を目指す」と書かれています。基本的には高度急性期から長期療養、施設介護、さらには在宅に至るサービスの資源を地域において総合的に確保した上で、ネットワークを構築して、効率的に、切れ目なくこれらのサービスを提供しようとするものです。「ネットワーク」が機能するためには、情報のスムーズなやり取りが必要です。利用する施設やサービスの間で情報がスムーズに伝達されなければ、大きな無駄が生じるだけでなく、サービス水準の致命的な低下は避けられません。

検査機器や検査結果の共同利用

例えば、日本のCTやMRIをはじめとする高額医療機器の数は、諸外国に比べて圧倒的に多く、小さな診療所でさえCTやMRIが設置されていることが珍しくありません。その結果、必要ない検査が行われたり、専門家による適切な診断が下されないことが生じます。今後、効率的で質の高い医療・介護サービスを実現するうえで、地域全体の資源を活用することが重要です。そのためには、組織や距離の壁を越えて、情報の共有や人的交流、高額機器の共同利用を簡便に行うための基盤が必要です。

電子カルテやアプリケーションの共通化

近年のクラウド技術の進歩に伴い、公的個人認証を用いた個人の特定と、閲覧者の権限や認証の管理を行う中継サーバを設置できるようになりました。これによって、ネットワークの基本となる情報のやり取りが可能になりました。アクセスできる情報を資格によって上手に制限できるようになりました。

このような環境下で、地域の医療機関が同じ電子カルテやアプリケーションを使うことができれば、情報伝達は極めて容易になります。例えば医師は、自院以外でもはじめから違和感なく診療を行うことができます。亀田総合病院は、県内の医師不足の病院から緊急に応援を要請されることがあります。こうした場合、電子カルテが共通であれば、支援を効率的に行うことができます。さらに、基幹病院の高額医療機器を用いた検査結果を参照したり、そこに検査をオーダーすることが可能になれば、地域医療の効率化と質の向上につながるでしょう。様々な事業所や職種が関わる介護分野においても、クラウド技術を活用し、地域で同じアプリケーションを利用することにより、業務の効率化と質の向上、さらに医療との連携を実現できるはずです。

基本ルールの必要性

しかし、従来の電子カルテで見られた情報の囲い込みのように、自らの利害のために勝手なことをしていたのでは、地域の情報ネットワークとしては成立しません。医療・介護の効率化と質の向上を実現するためには、情報の合理的かつ公正な取扱いを定める基本ルールが必要です。

医療・介護サービス提供者は、共通の電子カルテを使用しない場合でも、公正な条件の下に、平等に情報にアクセスできなければなりません。そのためには、サービス提供者を分類し、基本的な情報を分類し、情報蓄積の方法などを定める必要があります。しかし、共通の電子カルテやアプリケーションの使用をルールでどう位置づけるかについては、精密な議論が必要です。特定のアプリケーションが強制されるとすれば、多様性が損なわれ、個々の施設の細かな対応に支障が出かねません。特定のアプリケーションについて、参加と脱退の自由がなければ、公正な競争は生じず、進歩が阻害されます。


亀田信介: 地域包括ケアと情報ネットワーク. Socinnov, 1, e10, 2015.

© 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov.

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